47. 東洋医学の世界から見た世界の潮流の現在
東洋医学の世界から見た世界の潮流の現在
第4部 東洋医学ひぐちクリニック
樋口 理
東洋医学の世界に身を置いていると、日本医師やマスコミでは、全く言わないような情報を目にする機会に度々恵まれます。其の中で私にとって最大の情報は、世界の先進国では、『次の世代の医療は全世界で代替医療(オルターナティブ・メディスン)の全盛期になるだろう』と予測し、すでに行動を開始しています。という事実でした。ガーンと大きなハンマーで頭~全身をぶん殴られたような衝撃をうけました。日本は世界の潮流に乗り遅れているかもしれない??
すくなくとも2~30年から数10年か?
『ツボにはまろう』;長尾和治(元熊本市民病院院長)、『鍼灸の世界』;呉澤森(元WHO上海国際鍼灸養成センター教授)『もう大病院には頼らない』;代田文彦(東京女子医大学 東洋医学講座初代教授)などの本を参考に世界の潮流の現在をかい摘まんでーー大きな流れを列記してみると
1972年、WHOは、鍼灸を世界の伝統医学として正式に認めた。
1979年、WHOは、43疾患を鍼灸治療の適応と認めて発表(列記します)したのをきっかけに、アメリカ合衆国を始め、多くの国で鍼灸ブームが起こった。
WHOが承認した適応疾患リスト(43疾患)
急性副鼻腔炎、急性鼻炎、普通の風邪、急性扁桃炎、急性
気管支炎、気管支喘息、急性結膜炎、中心性網膜炎、近視
(子供の)、白内障(合併症のないもの)、歯痛、偏頭痛
、三叉神経痛、肋間神経痛、頸肩症候群、肩関節周囲炎、
テニス肘、座骨神経痛、腰痛、変形性関節症、歯肉炎、急
性および慢性咽頭炎、食道および噴門部の痙攣、しゃっく
り、胃下垂、急性および慢性胃炎、胃酸過多、急性十二指
腸潰瘍(痛みの緩和)、急性十二指腸潰瘍(合併症がない
もの)、急性および慢性大腸炎、急性細菌性赤痢、便秘、
麻痺性イレウス、顔面筋麻痺(初期、6ヶ月以内のもの)
、発作後の不全麻痺、末梢神経ニューロパシー、ポリオ後
遺症(初期、6ヶ月以内のもの)、メニエール病、神経因
性膀胱機能障害、夜間遺尿症など。
1980年代からアメリカ政府は鍼灸師の育成に力を注いでおり、現在は53州ほぼ全てで医師の鍼灸資格に関する法が整備され、数百時間の講習と実技を経験した医師には鍼灸資格が与えられ、様々な診療科で患者の希望により、ファーストチョイスとして鍼灸治療が提供されています。
また、鍼灸を保険支払いの対象とする州も多い。一方日本では、厚生省は漢方薬を健康保険からはずそうと画策しているが、アメリカでは正反対に、漢方薬を準医薬品として新たに許可し始めている。この事は、先進国の伝統医学に造形の深い人々の間では、日本の厚生省の役人や政治家の無知さ加減が物笑いの種になっているそうです。
(多分、明治政府が西洋医学導入時に鍼灸治療や漢方薬治療をほぼ抹殺した経緯があるから、厚生省などは、いまさらその有用性を認めるわけにはいかないのかと愚推します)
例えばアメリカでは、議会の決議によって、国立健康研究所の26番目の分野として「国立補完・代替医療研究所」を1995年に設立しました。研究所の発足当時の予算は1億2000万円であったのが、10年後には40倍以上に膨らんでいます。10以上の大学や10以上の病院で、学生や医師は伝統、代替・補完医療を学んで、患者の相談に対応できるようになりました。さらに、伝統、代替・補完医療を行う開業医の成果を大学や研究所と連携して研究する費用も1件あたり300万円くらい補助する制度もできました。
伝統、代替補完医療を受けるのに医療保険の適用も広がっています。WHOの調査でも、日本の国民や医師や医療制度は、このような統合医療を目指す世界の潮流から取り残されようとしています。
一方、生活習慣病という考え方や予防医学の大切なことが叫ばれています。
中国では昔から「上医は未病を治し、上薬とされる食べ物から指導し始めるけれども、下医は病気になってしまってから気づき、下薬とされる強い薬を使っても、病気の進行を防止できない」といわれています。
生活習慣である食べ物、適度の運動、心の養生を健康や医療の基礎として、具合が悪くなるにつれて、治療食や調整食、指圧や鍼灸、バイオーフィドバックやカウンセリングへと進み、温和な薬物との併用から、強力な薬物療法や手術へと進むのが世界の伝統、代替・補完医療に共通する考え方で、現代西洋医療とは全く逆の発想です。
現在、WHOは北京・上海・南京・広州に「WHO伝統医学センター」を設立し、研究や教育のための資金援助や人的援助を行なっている。さらに、北京・上海・南京では「WHO中国国債鍼灸養成センター」が開設され、毎年多くの医師や鍼灸師が世界各国から訪れ、中医学理論と鍼灸技術を」学び、その後母国へ戻り、鍼灸治療を国民へ提供している。
私の知っている呉澤森先生は、WHO上海国際鍼灸養成センターで教鞭をとられていました。
詳しくお伺いすると、講義は英語・フランス語・日本語のグループに分けられ、それぞれに通訳をつけて行われる。受講者は中医学の基礎理論を学び、そのうえで、経路や経穴などの鍼灸の基礎理論を学ぶ。さらに鍼灸治療に適応する病気や症状の診察・診断だけではなく、指導教官のもとで患者を実際に治療する臨床実習の時間も設けられているので大人気とのことです。
受講者の顔ぶれをみると、かつてはブラジルをはじめとする中南米諸国や、アフリカ諸国などの発展途上国から国費で派遣された留学生や研究者が大部分を占めていた。
しかし、最近では、医療先進国といわれる欧米諸国、特には鍼灸の盛んなフランスやドイツ、スカンジナビア諸国からやってくる医療関係者の数が急増している。その多くは、慢性病の治療を目的として、中医学の知識や鍼灸の技術を学ぼうとしている人が着実に増えているのは、間違いなく、また鍼灸が現代医学の及ばない分野に貢献できる治療法であることを反映していると思われる。
ちなみに、代田文彦先生によれば、日本の医師で鍼灸治療をしているのは、多く数えてもたかだか100人程度。現代西洋医学の最先端を突っ走るといわれる西ドイツの医師で鍼灸治療をしているのは1万人以上。アメリカの医師で鍼灸治療をしているのは、数万人。
また、西ドイツでは漢方薬の原料である生薬の取扱量が日本のおよそ2~3倍。
この差をどう理解するのか。日本は遅れていると述べられています。
さらに、患者の痛いところに手が届く「代替医療」の代表格が漢方薬や鍼灸治療であることすら、政府も厚生省も議員も知らない。あきれるばかりである。世紀末とはこのことかーーーと結論されています。
「WHO中国国際鍼灸養成センター」での研修では、内科・婦人科・整形外科・皮膚科・
耳鼻咽喉科などの病気を鍼灸治療する知識と技術を短期間で習得することができる。事実
この養成センターで学んだ鍼灸医は、現在も世界各地で活躍している。
現在、「WHO中国国際鍼灸養成センター」では、
①自然の摂理や法則を理解するために考え出された中国独特の考え方で、中医学の理論
基盤となる「陰陽五行学説」。
②人体の構造や機能を理解するために知っておく必要のある「臓腑」や「経路」、「気」「血」「津液」の考え方、
③発病因子となる、気象の異常な変化(「外邪」といい、「風・寒・暑・湿・燥・火」の6種類がある)や、感情の過剰な変化あるいは不足(精神的なストレスとなって正常な精神の活動を乱す、「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」の七つがある)、また病態を解き明かすために欠かせない「病機学説」、
④正しい判断を行うために考えられた四種類の治療法と、診察の結果得られた情報を分析して判断を下し、診断に見合った治療方針を実現するための手段(たとえば鍼灸なら、どのような種類の治療器具を選び、どのような手技を使って治療を行うか)を決定するまでのプランづくりのための様式、
⑤治療に必要な基礎知識と基本技術、
以上の、五つに分けて鍼灸医学教育が行われている。
なお、現在、日本の西洋医学界で使われている、内臓を表す用語は、中医学の「五臓(肝・心・脾・肺・腎)」と同じ文字で表現しているが、機能はかならずしも一致しない。
たとえば、西洋医学の肝臓は、胆汁の分泌や血液の貯蔵と血液量の調節機能をもつ点では中医学の「肝」と同じである。しかし、中医学の「肝」が精神情緒活動をコントロールする機能はないと考えている。「肝臓」ではなく「肝」というように、中医学や漢方医学について書かれた文章のなかで五臓の名前に「臓」の文字をつけないのは、西洋医学の用語と区別するためなのである。
なお、中医学では、五臓とは別に「腑」と総称される六種類の内臓(「肝・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦=水液代謝の通路)が考えられている。「腑」は食べ物や飲み物を受け入れ、また、便や尿のようにからだに不要なものを排出する働きをもっている。
以上列記したように、西洋医学の概念や治療体系と全く異なる東洋医学(中医学、漢方医学、鍼灸治療)が世界の先進国では、『次の世代の医療は全世界で代謝医療(オルターナティブ・メディスン)の全盛期になるだろう』と予測し、すでに行動を開始しています。
ということで、漢方治療や鍼灸治癒を自分で経験してみて、非常に素晴らしく、自然治癒とはこんな風な治り方と感激する機会にしばしば遭遇し、日本にも海外から逆輸入される日がそう遠くはないのではないかと、一人勝手に愚考しています。