48.東洋医学治療の小経験 -眼針&頭針&耳針を網膜色色素変性症と脳出血後方麻痺へ応用-
東洋医学治療の小経験
-眼針&頭針&耳針
を網膜色色素変性症と脳出血後片麻痺へ応用-
第4部会 東洋医学ひぐちクリニック
樋口 理
①眼針&②頭針&③耳針と言われても、ほとんどの方は全く御存知ないと思います。
又、その効果がどの位あるかなどは、ほとんどわからない領域で、使い方次第では、とてつもない破壊力をもっているなどとは想像もできないかと思います。
私も西洋医学一辺倒の時代には、鍼治療なんかー効くはずがない!!とー頭から箸にも棒にもかからないーーー西洋医学よりはズーット下だと見下していましたが、東洋医学の世界に身を置き、諸々の経験をするに連れて、『目からウロコの世界』を何十回と経験し実感しました。
◆①先ずは、眼針の歴史・網膜色素変性症の出展などについて簡単に説明します。
眼針には、数千年の歴史があると言われていますが、①≪針灸甲乙経≫(259年)に眼周囲の 晴明、攅竹などに針を刺し治療したという記載が一番古いようです。
網膜色素変性症は、進行性の視力減退・視野縮小を伴う夜盲・網膜色素沈着・遺伝性などが特徴と されていますが、②≪太平聖恵方≫(992年)に進行性で視野狭窄を伴う夜盲を主とする “高風内障”として記載が最初のようです。今から1000年以上前から病気として存在していたことになります。また、様々な治療方法が生み出され、試され、人体実験を繰り返し、有効な治療方法のみが現在まで残り続けていると想像されます。③≪元機啓微≫(1370年)にも同様の記載があります。④≪秘伝眼科竜木論≫(宗・元?)には“高風雀目内障”と記されています。
⑤≪審視瑤函≫(1644年刊)にも“高風内障”として記載されています。
①≪針灸甲乙経≫(しんきゅうこうおつけい)
原名『皇帝三部針灸甲乙経』、略称『甲乙経』皇甫謐(こうほひつ)、259年頃撰。全10巻。
後に12巻、128編に改編された。本書は『素問』『針経』(『霊柩』の古名)
『明堂孔穴針灸知要』の三書を分類し再編したもの。主に臓腑経路・脈診理論・穴部位、
針灸法および禁忌・病因病理および各種疾病の諸候・針灸取穴などについて論述。
中国で現存するものとしては、内容がほぼ完全に揃った最古の針灸著作であると同時に、
『黄帝内径』の古伝研究における重要文献。本書は古代の鍼灸療法を系統的にまとめて整理したもので、針灸学の発展の上で重要な推進力となった。
建国後、人民衛生出版社から校勘本が出版された。
②≪太平聖恵方≫(たいへいせいけいほう)
『聖恵方』とも。100巻。992年刊。北宋の翰林医官院の王懐隠らが広く収集した民間の効方を
もとに、北栄以前の各種の方書から関連する内容を集めてまとめたもの。巻1~2診法および
処方用薬方、巻3~7五臓諸病、巻8~14傷寒、巻15~59内科雑病(眼目・口歯・咽喉を含む)、
巻60~81婦人病、巻82~93小児病、巻94~95服食および丹薬、巻96~98食事療法および補益方、巻99針経十二系図、巻100明同灸経および小児灸経。収集された方剤は1万余首に上がり、古典医籍の佚分も収める。10世紀以前のものを総括した大型臨床方書で、歴史的価値のみならず、臨床研究の参考となる大きな価値をもつ。ただ本書は資料の選定が十分ではなく、迷信的な記述も含まれる。建国後に排印本がある。
③≪元機啓微≫(げんきけいび)
眼科の書。別名は『原機啓微』2巻。元の倪維徳(げい・いとく)撰、明の薛己(せつ・き)校注。
1370年初版。上巻は眼病の病院と治則の9論。下巻は方剤の配合に40余りの方と方義の説明を付す。
薛己は本書を『薛氏医案』に収録する際、自分の見聞と経験を付録1巻として加えた。
その内容には11論および70余りの付方が含まれる。建国後に排印本がある。
④≪秘伝眼科竜木論≫(ひでんがんかりゅうぼくろん)
『秘伝眼科竜木論』『眼科竜木論』とも。10巻。作者未詳。ほぼ宋・元の間に編集された。
肝~6は『竜木論』『眼論審的歌』を輯録。眼科総論のほか、72種の眼科の病証および治療方薬について記述。巻7は諸家秘要名方で、『三因方』などから38の眼科方剤を引用。巻8は針灸経。巻9~10は諸方弁論薬性で、眼科常用の針灸穴位、針灸法、薬性主治を関連する文献から輯録。建国後に排印本がある。
⑤≪審視遥堪≫(しんしようかん)
眼科の書。『眼科大全』『氏眼科審視遥堪』とも。6巻巻首1巻。明の傅仁宇(ふ・じんう)撰、
1644年刊。巻首は眼科名医の医案と五輪八廓および運気論を収録。巻1~2は眼科の生理および証治大要を論じる。巻3~6は眼科病を108症に分けて詳細に記述し、計300余りの方剤を収録。さらに金針撥内障および鉤・割・針・烙・用薬の宜忌、眼科針灸療法、点・洗・敷・吹といった眼科の外治療を紹介。内容は豊富。建国後に排印本がある。
◆眼針
眼白の部分を8区域に分け、13此の穴位があります。
1区(乾);肺・大腸・2区(坎);腎・膀胱、4区(震);
肝・胆、6区(离);心、小腸、7区(坤);脾・胃と五行の表裏に対応させています。
3区(良)は上焦、5区(巽)は中焦、8区(兌)は下焦としています。
◆眼針;科学出版社によると“網膜色素性症”を大きく3タイプに分けています。
①胃腸不足型;
症状;初発は夕方や暗いところで物が見えにくくなり、動作が困難となる。
その後、経過とともに視野が狭窄。全身や四肢の冷え。
腰膝のだるさ、陽萎、尿頻、舌談、脈沈。
取穴;眼針2区、3区、4区、6区、球後、承泣、四白、晴明、太陽など
配穴;脾兪穴、肝兪穴、足三里、関元など 置針;30~60分
漢方;温補腎陽、右帰丸(エキスでは八味丸で代用)
②肝腎陽虚型;
症状;目の乾燥感、頭暈耳鳴、心煩少寝、多夢遺精、舌紅少苔、脈細数
取穴;眼針2区、3区、4区、5区、球後、承泣、四白、晴明、太陽など
配穴;腎兪穴、肝兪穴、三院交穴など 置針;30~60分
漢方;滋養肝腎
③脾胃虚弱型;
症状;面白、精神疲労、食欲低下、舌淡苔白、脈弱
取穴;眼針4区、5区、7区、球後、承泣、四白、晴明、太陽など
配穴;脾兪穴、肝兪穴、足三里など 置針;30~60分
※※網膜色素変性症の診断がついても、患者様の体質によっ
て治療方法がことなります。東洋医学は、体質へ向かう
治療医学が専門と言えます。そして、そこに2000年以
上続いている神髄が隠されています。
◆眼針;科学出版社の目次(臨床応用)の病名を下記に示します。
麦粒腫、眼瞼炎、眼瞼痙攣、上眼瞼下垂、慢性涙嚢炎、細菌性結膜炎、春季結膜炎、単純疱疹病毒性角膜炎、細菌性角膜炎、真菌性角膜炎、眼乾燥症、葡萄膜炎、白内障、硝子体混濁、青光眼、網膜動脈閉塞、中心性漿液性脈絡膜病変、網膜色素変性症、視神経萎縮、視神経炎、貧血性視神経病変、眼精疲労共同性斜視、麻痺性斜視、弱視、近視、遠視、 老眼、顔面神経麻痺など
◆②頭針;数千年の歴史があり、頭部にも沢山の穴位があります。1950年台以降に非常に研究が行われ、現在の頭針療法が確立したと言われています。大脳皮質の働きと皮膚の反射部位を精密に照らし合わせ、臨床効果が高まるように工夫されています。
頭部を4区;①額区、②1頂区(1)、②2頂区⑵、③頂区与顳区、④枕区に分け、治療上有用 な14頭部の4区と14本の治療標準線を決めています。
頭部の4区と14本の治療標準線、その効用・主治等を示します。
①額区
・額中線、効能;醒脳開竅
主治;頭痛、頭暈、目赤腫痛、癲癇、精神失常、
鼻病など
・額旁1線、効能;宣肺平喘、下痰止咳、寧心安神
主治;胸痛、胸悶、心悸、哮喘、逆
・額旁2線、効能;健脾和胃、疏肝理気、
主治;急慢性胃炎、胃十二指腸潰瘍、肝胆疾病
等
・額旁3線、効能: 補腎固精、清利湿熱
主治;機能性子宮出血、陰萎、遺精、子宮脱垂
尿頻尿急等
②1額区⑴
・額中線、効能;疏経通絡、升陽利益、平肝熄風
主治;腰腿足病症(不随、麻痺、疼痛)、多尿
脱肛、小児夜尿、高血圧、頭頂痛
②2額区⑵
・頂顳前科線、効能;疏経通絡
主治;上1/5-2対下肢麻痺、中2/5-上肢麻痺
下2/5-対中枢性顔面麻痺、運動性
失語、流涎、脳動脈硬化等
・頂顳後斜線、効能;疏経通絡
主治;上1/5-対下肢感覚障害、
中2/5-上肢感覚障害、
下2/5-対顔面感覚障害
③頂区与顳区
・頂旁1線、効能;疏経通絡
主治;頭痛、頭暈、腰腿病症(不随、麻痺、疼痛)
・額旁2線、効能;疏経通絡
主治;頭痛、偏頭痛、眩暈、肩、腕、手病症
(不随、麻痺、疼痛)
・顳前線、 効能;疏経通絡
主治;偏頭痛、運動性失語、顔面神経麻痺
口腔疾病等
・顳前線、 効能;疏経通絡
主治;偏頭痛、眩暈、耳顳、耳鳴り等
④枢区
・枕上正中線、効能;明目、健腰
主治;眼病
・枕上旁線、効能;明目、白内障、近視等
主治;視力障害、白内障、近視等
・枕下旁線、効能;疏経通絡、熄風
主治;小脳疾病による平衡障害、後頭痛等
◆⑶耳針療法は、耳ツボダイエットでご存知の方もおられるかと思いますが、最古の医学書
『帝内経』には耳穴を使っての治療が30ヵ所以上記載されいるそうです。その後の歴代文献でも 耳穴診察に関する記載は多数あるそうです。
例えば、『千金要方』にも、“耳後陽維穴ヲ艾灸シ、風聾雷鳴ヲ治療ス”とあり、『世医得効方』にも“ 赤眼—耳後紅筋挑ス”とあり、古代の医者は耳が疾病の診断治療に役立つと認識していたと想像されます。
1950年台、耳穴治療法はヨーロッパで盛んになり、フランス人の医学博士Nogier氏が中国針灸を学び、耳穴の研究を6年間行ない、1957年世界で初めて胎児を逆さにしたような耳穴図譜を発表し、耳穴を42に拡大しました。さらにこの事は、中国語に翻訳され、更に発展しました。 現在では、耳穴は200余りに達し、1982年WHOは、耳穴の国際標準化を勧め、世界中の数十ヶ国で 治療のために臨床応用されています。(日本では、マスコミも医師会もこの事を取り上げていません。
世界の大きな潮流から40年は確実に遅れていると想像されます。)
※耳穴診療法(たにぐち書店)の目次疾病名を列記します。いかに沢山の病気治療に応用できるかが分かると思います。
1、内科疾病;風邪、咳、喘息、胃痛、消化機能失調症、吐き気、しゃっくり、下痢、便秘、胆嚢炎、胆石、虫垂炎、心痛、心悸、眩暈、頭痛、高血圧症、不眠症、腺疾患、消渇(糖尿病)
2、外科皮膚科疾患;頸椎症候群、肩凝り、寝違え、腹筋ストレイン、座骨神経痛、関節リウマチ、にきび、褐色班、蕁麻疹、アトピー皮膚炎。
3、産婦人科疾患;生理不順、生理痛、閉経、帯下、更年期症候群、機能性子宮出血
4、眼科耳鼻咽喉科疾患;麦粒腫、近視・遠視・弱視・乱視、耳鳴り・難聴、アレルギー性鼻炎、鼻血、歯痛、口内炎、咽喉炎
5、耳穴の特殊応用;肥満症、美顔、禁煙、酔い醒まし、疲労回復、乗り物酔い
次いで、この眼針&頭針&耳針を網膜色素変性症と脳出血後左片麻痺へ応用例を最近経験しましたので、症例を提示いたします。普通の経過と比べてどうなのか?分かりませんがーーー。
以前から眼針&頭針&耳針は日常臨床では毎日諸々の疾患に施工し、その威力には感激していました。ただ、眼科や脳血管障害例は施行のチャンスがなく、機会があれば試してみたいと思っていました。今回偶然にも立て続けに3例の症例に施行するチャンスに恵まれ、そこそこの経過と結果を出しそう或いは出していますので、報告いたします。
≪症例≫ 61歳、女性
C.C.;左半身不随
P.I.;平成28年2月19日、歩行中に突然の意識消失発作、構音障害、左上下肢麻痺。救急搬送され、CTにて右被殻出血。保存治療にて意識レベルは改善し、麻痺もBruustrom 3~4と改善。入院中で、本来なら他院受診はできませんが、特別の計らいで、3月30日当院初診。以後1/2週受診され、鍼治療を施行しました。
治療/経過;
3/30;初診時、車椅子受診。左上下肢は弛緩性麻痺の状態。十宣から刺絡施行。体針は、三針を肩、前腕、手関節、大腿、足関節に施行。耳針は神門・皮質下・皮質下・緑中・脳幹・肝・脾・腎、及び上下肢の各部に皮内針を置針。
漢方薬は疎経活血湯を投与。導引後に左下肢で起立され、一同ビックリ。
4/13;車椅子受診。左下肢の足関節の動きが出現。鍼治療は同じ。漢方薬は補中益気湯を追加。
4/27;車椅子受診。左上肢の指の屈曲伸展が出現。鍼治療は同じ。
5/11;車椅子受診。左下肢、病室では装具なしで歩行しているとの由。
5/25;車椅子受診。左下肢、肘の動き屈曲がかなり良い。
6/8;車椅子受診。歩行はほとんど問題なし。左上肢、肩は拳上が困難。漢方薬はOTCの補陽環五湯を併用開始。
6/22;1本松葉杖、左短下肢装具にて受診。左上肢、肩は拳上が約90度可能。
7/6;7/9に退院が決まったと報告。顔を洗うのに手がもう少しで届きそう。リハビリのスタッフからは経過が予想以上に早いとの事。自分より前に発症した人でも、まだ経過が遅いようだとーーー。
退院後は左上肢の可動域と筋力アップを目指して鍼治療などを予定。
◆◆脳出血後の新先例への鍼治療と漢方薬の経験です。初めてなので、経過が普通?早い?遅い?か全くわかりませんし、判断の仕様がありませんが、リハビリのスタッフからは早いと言われたそうです。
(症例2)65歳、女性
C.C.; 視力障害
P.I.; 2年前に白内障の手術をしたが、それでも物を落としたときに、探せないことがあり、白内障のせいだと思っていたが、ひどくなってきたので、相談したところ、詳しい検査で視野狭窄があり、網膜色素変性症と診断された。大学院を紹介されたが、治療法はないと言われた。3年前に当院で膝の鍼治療をしたときに、目の針をしていたのを思い出し受診される。
治療&経過;中学校高校で2回中耳炎の手術をしたが、未だに耳から液が流れ出ている。これも一緒に治療して欲しいというので、東洋医学ではと前置きして、西洋医学では食べたり飲んだりした物は、すべて大小便で排泄されると考えるがーーー、東洋医学では排泄されずに体内に残ると考えると説明するも、?半信半疑。人体を丸ごと一つとすると、大小便で出ていかなければ、他の空いた穴から排泄。即ち目・鼻・耳・口から、それでも駄目なら皮膚から排泄と考えると説明する。先ず、陰性食品(水お茶9杯/日)を制限。すると、耳からの液は減少し、洗浄に行かなくても、良いようになりました。目の方は、当初目周囲の四穴針を主に耳針を施行していましたが、反応今一つ。そこで、大阪の木本先生に教えを請い、頭針を更に6/28より併用しました。
6/28;大腿の肝経の三黄穴に置針し、四穴八針し、頭は側面の感覚領域と後頭部の枕区の枕上上正中線、枕上旁線、枕下旁線に置針施行。すると、帰りには信号待ちで、車が消えていたのが違ってきた。
7/2 ;鍼治療は同じ。視野欠損部の周囲が少し明るくなってきた。
7/11;鍼治療は同じ。信号待ちで、車がプツンときれていたのが、ボンヤリ見える。自分の指の動きが目の外眦10cmで分かっていたのが、20㎝離してもわかるようになってきた。
※※治療の途中ですが、4回の鍼治療で改善傾向が出ていますから、今後どうなるか経過が楽しみです。
(症例3)81歳、男性
C.C.;右手の不自由(脳梗塞後)
P.I. ;半年前に右手足に力が入らなくなり、動きにくくなり、脳梗塞と言われて治療をした。現在は2/週リハビリをしているが、パットしない。息子が針灸や漢方で膝の調子や体調がよくなったので、勧められて受診。
治療&経過;陰性食品の制限を指示。東洋医学では麻痺は、『経路が通じていないから起こる』と説明し、『通じさせる治療』をしましょうと説明。漢方薬は疎経活血湯を中心」に投与。
初回;手足に八邪・八風し経路に沿ってカマヤミニ灸を施行。灸をしている間に手足の運動をするように指示。すると「動かしやすくなってきた」と一言あり。杖を使わなくても歩けそうと言われる。
2回目;同様の治療。リハビリの先生からも「急に良くなった」と言われたそうです。
3回目;同様の治療。
4回目;自分で車を運転して来られたので、皆ビックリ。車を降りてからは、杖を使わずに歩かれた。今までは、手足が不自由で思うように動かないので、外出はすべて息子か嫁の運転であったが、針と灸治療をしてから、体が軽くなり、動きも良いので、自宅の庭で試しに運転してみたら、出来たので車できたとのよし。
6ヶ月間のリハビリで今一つが、針灸治療3回でグーっと改善しました。
◆鍼灸治療の運動器疾患への応用の効果が、証明される症例だと愚行しています。