10. 東洋医学的治療の小経験 (脳外科編)
10.東洋医学的治療の小経験 (脳外科編)
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東洋医学的治療の小経験
(脳外科編)
第4部会 東洋医学ひぐちクリニック
樋口 理
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西洋医学の整形外科医では、脳外科の分野は畑違いでしたが、漢方&鍼灸治療を学んでいくうちに、諸々のことに少しずつ対応出来るようになりました。西洋医学と東洋医学の頭痛分類と治療法を比較例記します。
・西洋医学の頭痛分類と治療法
a) 分類
血管性頭痛(片頭痛)80%
緊張型頭痛あるいは混合性頭痛
一部に三叉神経痛、後頭神経痛
b) 治療法:精神安定剤、節弛緩剤抗うつ薬、血管収縮剤各種トリプタン系薬剤
・東洋医学の頭痛分類と治療法(漢方治療・鍼灸治療)
a) 分類
外感性頭痛 ①風寒頭痛 ②風熱頭痛
内傷性頭痛 ①痰湿頭痛 ②肝陽頭痛
③気血両虚頭痛 ④お血頭痛
⑤腎虚頭痛
漢方治療では、
(1)外感性頭痛の①風寒頭痛に対して川芎茶調散。
(1)外感性の②風熱頭痛に対して銀翹散。
(2)内傷性頭痛の
①痰湿頭痛に対して半夏白朮天麻湯。
②肝陽頭痛にたいして釣藤散、杞菊地黄丸。
③気血両虚頭痛に対して十全大補湯。
④お血頭痛に対して桂枝茯苓丸、桃核承気湯。
⑤腎虚頭痛に対して六(八)味丸。
鍼灸治療では、
(1)外感性頭痛の①風寒頭痛に対して大椎(灸)、風池、太陽、風門、外関。
②風熱頭痛にたいして大椎、風池、委中。
(2)内傷性頭痛の
①痰湿頭痛に対して百会、足三里、豊隆、中脘。
②肝陽頭痛に対して百会、内関、太衝、領厭。
③気血両虚頭痛に対して脾兪、血海、足三里。
④お血頭痛に対して膈兪、血海、三陰交。
⑤腎虚頭痛に対して百会、太衝、腎兪、兪府、列缺。
①頭痛の漢方治療
・経絡別に入経薬(引経薬)が決まっています。
太陽経:姜活、蔓荊子、蕎本、陽明経:白芷、葛根、少陽経、柴胡、黄芩、川芎、
厥陰経:呉茱萸、蕎本、当帰など
これを利用して投薬も出来ますが、多いのは日本では水毒による頭痛だと思います。
日常臨床では、五苓散がよく使われます。但し、陰性食品(人を冷やす:茶、コーヒー、ビール、果物など)の制限が必要です。
②頭痛の鍼灸治療
ほとんどの方は、御存じないでしょうが、頭痛を含めて痛みの治療、鍼は非常に効果的です。但し頸背部の凝りをとるのがうまく行く条件です。頭痛に常用される経穴
(1)風池(胆経)、(2)頭維(胃経)、(3)頷厭(胆経)、(4)太陽(奇穴)、
(5)列缼(肺経)、(6)懸鐘(胆経:別名を絶骨)、(7)跗陽(膀胱経)と崑崙(膀胱経)
前頭部:腸明胃経、頭頂部、厥陰肝経
側頭部:少陽胆経、後頭部:太陽膀胱経
上病下取(上の病気は下の穴を使って治療する)の原則にのっとり膝から下又
は足関節以下の穴位を使って治療するのがベストです。
数少ない中から、市販の鎮痛剤を飲まなくてよくなった例を呈示します。
(症例1) 37歳 女性
C.C.頭痛、肩凝り、冷え
P.I.小学校高学年より頭痛があり、鎮痛剤を服用。(約20年の頭痛歴)。
ここ数年は生理前には必ず頭痛 嘔気があり鎮痛剤が手放せない。首と肩の凝りも強く、朝起きても体がすっきりせず、だるい状態が続き、いつも横になっていた。手足の冷えも有る。
H23.8.13 受診
治療&経過
H23.8.13━水毒、裏寒(内臓の冷え、多分鎮痛剤による)、
薬物乱用頭痛と診断し、治療開始。出来る限り
陰性食品制限し、鎮痛剤使用も控える。裏寒に
対しては、附子理中湯。頸背部の凝りに対して
鍼治療:横刺、刺絡、扱い玉
施行。頭痛時五苓散頓用。
H23.8.27━鎮痛剤やめているが、そこまでない。肩凝りも
よい。便秘(+)。附子理中湯合大黄甘草湯。
昼間は加味逍遥散。
H23.9.17━便通良好。台風前に軽い頭痛。五苓散増量
又は半夏白朮天麻湯頓用指示。
H23.10.1━毎朝の頭痛が無くなった。目眩もない。半夏
白朮天麻湯で尿が沢山でた。「頭痛のない
日々がこんなにすばらしく感じたのは何年ぶ
り・・・」と言ってくれました。
H23.10.8━鎮痛剤は2ヶ月飲んでないがよい。ドライアイ
有り。人中穴に置針し滋陰剤
(麦門冬湯:薬の手帳では咳、喘息)を使用。
ドライアイは置針後「ジワット涙がでて潤った」
と弁あり。
H23.10.22━目薬の回数が減った。パソコンで目が疲れ
やすい。VDとし抑肝散頓用。
H23.11.19━目薬使わなくても良い。毎年冬に霜焼けす
る。予防的に灸施行。穴位を教え、自宅で灸
するように指示。
H24.1.28━霜焼けはできていない。・・・・・
こんな感じで、時々薬を取りに来たり、鍼灸をされたりして日常生活をまっとうされています。
(症例2) 56歳 女性
C.C.頭痛(約20年の頭痛歴)
P.I.30代後半より頭痛に悩まされ、最初はこめかみの付近がズキンズキンし、仕事を休むわけにもいかず、市販の頭痛薬を服用。45歳頃より頭痛がひどくなり、こめかみだけでなく、後頭部も痛み吐くことも有りました。心配になり脳外科を受診、検査を何回か受けたけれども、「異常なし」。多い月は7~8回、少ない月で3~4回、頭痛が襲い、その度に点滴注射。痛くなるのが怖くて、頭痛薬を頻繁に飲むようになり、不安が増し、体力にも自身がなくなり、55歳で早期退社しました。が、薬が手放せなく、何とかしたいとH24.11.16 受診。
治療&経過
H24.11.16.━水毒、裏寒、薬物乱用頭痛、厥陰頭痛と診断し治療開始。紅茶、コーヒー、ルイボスティーなどの陰性食品を制限。また頭痛薬もできるだけ使わないよう指示。厥陰頭痛の特効薬:呉茱萸湯を服用させると美味しいことのこと。呉茱萸湯と五苓散の交互飲み。頸背部の凝りに鍼治療、厥陰肝経の穴に円皮針はり、2~3回/日押すように指示。
H24.11.28.━随分違ってきた。頭痛おきていない。
H24.12.3.━雨天前頭痛軽度有り。
H24.12.11.━ここ2週間頭痛が起きていない。
H24.12.20.━冷えると良くない。経絡の中寒として五積散加附子を頓用。
H25.1.16.━冷えても頭痛おきない。調子良い。
時々、腰や頸背部に鍼灸治療していますが、頭痛はおきません。外食で暴飲暴食した翌日におきます。
コメント
患者さんには頭痛の80%は水分のとりすぎで生じる事を説明し、水分とりすぎで頭痛を生じる事を実体験され、納得されます。水1ccの編在で頭痛は起こり、現代医学の測定機器CT・MRIは、まだこれを把握できない。即ち人間の方がより精密機械だと説明しています。
(器質的変化はとらえるが、原始感覚や機能変化はとらえられない)
東洋医学では、疼痛は『冷えると痛む』という大原則があり、--裏を返せば温泉などで『温めると薬になる痛み』は冷やしてはいけない。疼痛治療の大原則は『温める』です。
従って治療は人を冷やす食品や薬を除き、温めます。そうすると、皆さん浮かび上がってきます。が残念ながら西洋医学には温める手段がなく、ブロックや鎮痛剤など限られた時間痛みを止める手段しか持っていません。
※※西洋医学の鎮痛剤(湿布も含む)の使用方法
-東洋医学の立場から-
◆◆絶対的適応
局所に熱(+)のワンチャンスのみ--せいぜい3日間
◆◆絶対的禁忌・・『冷えると痛む』裏をかえせば、『温めると楽になる痛み』
ほぼ全てが絶対的禁忌
私の拙い経験から独断と偏見が多々加味されていますが、鎮痛剤を飲み続けている間は治らないと確信しています。鎮痛剤を抜いて、東洋医学で温めてあげると、特に慢性疼痛疾患の方は、間違いなく皆さん浮かび上がってきます。腰、膝、肩、部位は問いません。
中国や韓国の医療関係者の方々は、『日本の患者は、知らないと言っても、食生活と治療で冷やされて可哀想』と言われます。
鎮痛剤の副作用は消炎、鎮痛、解熱ですが、解熱は冷えを生じます。従って長期使用は人にとっては危険という事です。