論文タイトル

32.東洋医学の小経験 ー脾主肌肉;脾は肌肉を主るー

32.東洋医学の小経験 ー脾主肌肉;脾は肌肉を主るー



東洋医学の小経験
ー脾主肌肉;脾は肌肉を主るー

第4部 東洋医学ひぐちクリニック
樋口 理

東洋医学の理論体系の一つに五行学説というのがあります。古代哲学理論との事で、現代医学しか知らない私には、初めは何のことやら?でチンプンカンプンでした。東洋医学(漢方薬と鍼治療)の治療を続け、種々の経験をする内に、これがヒョットしたらアレカモ?と思い当たることが少しづつ出始めました。そんな思い当たりの一つが『脾は肌肉を主る』何のことやら?ですが

◆『脾は肌肉を主る』ーー漢方用語大辞典によれば
肌肉の栄養は脾の運化、吸収によって得られる。一般に脾気が健運し、栄養分が充足していれば、肌肉は豊満する。ゆえに『脾は肌肉を主る』と言われる。たとえば、脾に病があれば消化吸収の作用に障害が生じて、次第に消痩してくる。

◆肌肉ーー漢方用語大辞典によれば
肌とは肉と同義で体表に接する筋肉をさす。深浅からいえば、豪毛腠理、皮膚、肌肉となり、次いで脈、筋、髄の順となる。
筋とは腱や筋膜をさします。
西洋医学の知識では、廃用性萎縮或いは、神経麻痺で筋肉はおちるーーー
治療経過中に脾に働く漢方薬を使用していて、思わぬ結果、筋萎縮や筋力低下が良くなった症例があり、これがヒョットしたら『脾は肌肉を主る』に該当するのではないかと愚考しています。そのような症例を示します。

(症例1)◆.◎.;71歳、男性
C.C.;右手で机の上にあるコインがつかめない。(買い物でお釣りがわからない)
P.I.;数年前から、何とはなく、右手がおかしかったが、検査では異常無し。徐々に買い物でお釣り貰うのにサットつかめなくなった。数件の医療機関に相談したが原因も分からず、治療法も無いと言われた。ヒョットしたら漢方や針治療でどうにかなるかもしれないと思い、受診。
P.H.;心臓バイパス手術のため左手の動脈は1本ない。しかし左手は温かく、右手は非常に冷たく、母指球には筋萎縮がありました。
治療&経過;陰性食品の制限を指示。鍼治療は右手に八邪、肘関節に灸頭針、頸背部の凝りに置針。漢方薬は脾虚に四君子湯、右手の冷感に当帰四逆加呉茱莫生姜湯を投与。経過はしばらくすると、先ず右手の冷感が徐々に消失し、それに連れて初診時には言われなかった『細い筆で板に字を書ける』ようになった。次いで『テニスをする際、ラケットがぬけかかっていたのがシッカリ握れるようになった』そして更に大きなコイン500円玉から10円玉がつかめるようになり、半年後には1円玉もつかめる様になりました。そして不思議な事に、母指球、筋萎縮がわからなくなっていました。筋萎縮が治ったということです。
【コメント】
右手で机の上にあるコインがつかめない(買い物でお釣りがわからない)と言う訴え。最初はどうなるか?。しかし、患者様は熱心に治療を続けられ、こちらも出来る限りをつくし、その結果、日常生活上の支障が薄皮をはぐ如く少しづつ良くなっていきました。そして不思議な事に、母指球の筋萎縮はわからなくなっていました。
これがヒョットしたら『脾は肌肉を主る』に該当するのではないかと一人勝手に愚考しています。これが真実なら、昔の人々、古人は凄い治療体系を考案したものだと驚かずにはいられません。唯、人間の体の中で起こったことは逆回転すれば元に戻れる訳で、これが本当の自然治癒力かもしれません。自然治癒力であれば、人間全員が持っているはずですからーーその気になれば大抵の事を治せるのではないかと愚推しますーーー。

(症例2)H.I.;36歳、女性
C.C.;左足が腫れて痛む
P.I.;元々RAがあり、H25.6~H26.2まで漢方治療をして西洋薬を離脱され経過良好で廃薬になった方です。H26.6.より左足が腫れ始め、H26.8.22.左足の腫れと痛みで受信。又、背中に尋常性乾癬があり治療して欲しいとのこと。
治療&経過;鍼治療は調気(四関穴、三気海)、頸背部の凝りに置針。左足の腫れに対しては八風施行。漢方薬は薏苡仁湯をベースに桂枝加朮附湯、桂枝茯苓丸加薏苡仁湯を投与。
尋常性乾癬には、温清飲、桂枝茯苓丸加薏苡仁湯、黄連解毒湯、通導散を投与。患部には刺絡後吸い玉施行。足が重いの訴え時には九味檳榔湯を投与。治療1ヶ月後の9/24突然左足指が伸びてきたの一言あり。RAの変形ハンマーツウが曲がっていたのが伸びてきたと。私が見てもというか、以前からRAの変形ハンマーツウがあるのは知っていましたが、それがどの位のびたかはわかりませんでした。左足の腫れと痛みは順調に減り、更に1ヶ月後10/24。私がみてもRAの変形ハンマーツウがよくなっているのがわかりました。そしてさらに足首が細くなり、以前は内外くるぶしが全く分からなかったのがハッキリトみえるようになっていました。本人も下半身が軽くなり、子供たちからも「足の格好がよくなってきた」と言われたとの弁あり。

【コメント】RAの変形ハンマーツウは東洋医学では、水毒のなせる変形と考えます。若し水が全て体外にでずに、体内に溜まるとすれば一番低いところに溜まります。足の裏が一番低い所で、水は寒凝;冷えると縮む;足底にある屈筋群が冷えて縮めばRAの変形ハンマーツウが生じます。そしてこの方は薏苡仁湯をベースに桂枝加朮附湯、桂枝茯苓丸加薏苡仁湯を投与して、足裏の水が抜ける、体外へ排泄されると寒凝;冷える縮む;が修正されて指が伸びるという訳です。薏苡仁湯の構成生薬;白朮は脾にはたらきます。橋下敬三先生が『生体の歪みを正す』に中で、『体の設計にミスはない』と述べられています。体内で起こったことと逆のことが起これば修正されるという訳です。不思議な治り方ですが、何か感激したくなるような治り方と思われませんか?!?
患者様本人も20年間あった足指の変形が漢方治療で3カ月足らずで改善しつつあり、ビックリやら嬉しいやら不思議そうな表情です。治り方は左足の方が早く、右足が遅いです。これも、『たすきがけ理論』右上半身と左下半身は水の影響、左上半身と右下半身は血の影響;人間工学的な分析;古人の観察力には、いつも唯々凄いと感服せずにはいられません。

(症例3)H.T.;18歳、男性
C.C.;左手の指が伸ばせない、震える、力が入らない
P.I.;1年位前から、何となく左手に違和感(?)があるも放置。左手の冷感、手の震え、左手の示指・中指が伸ばせない、力が入らないと◎年2/14日受診。
治療&経過;陰性食品(コーヒー、ココア各2杯、アイス2本、麦茶5杯)の制限を指示。鍼治療は左手に八邪、調気(四関穴、三気海)、頸背部の凝りに置針。天宗に吸い玉施行
漢方薬は当初気虚と痺症として、補中益気湯と薏苡仁湯を投与。1カ月後手の震えが軽減して来たとの事。3月中旬手指の冷感が強くなったとの弁あり。漢方薬を変更。腹診で2本棒であるため四逆散と当帰四逆加呉茱莫生姜湯を投与。2週間後2本棒は消失。手指の冷感は持続。その頃、手の筋肉が落ちてきたとの弁あり。もう1度再考。脾腎両虚とし補中益気湯は前回効果なく、腹診で中脘の圧痛あり。建中湯の中で補気作用を強めた黄耆建中湯と六味丸を投与。1カ月後手指が温もってきたとの弁あり。更に1カ月後、震えも良い、手指の伸びも良くなて来たとの由。9月には日常生活には支障無く、使い過ぎると疲れるとの事で十全大補湯を頓用。経過良好です。

【コメント】後日わかりましたが、此の方は手の専門外来を受診され”平山病”の診断を下されていました。指が伸びないのを当初気の低下として補中益気湯を投与しましたが、反応は今一つ。手の筋肉が落ちてきたとの事で、脾を中心にと再考して黄耆建中湯と六味丸を投与し経過が違って来ました。先ず手指が温まり、温まると震えが止まり、最終的には指が伸ばせる様になりました。気の働きには①推動作用②温煦作用③防御作用④固摂作用⑤気化作用の五つの作用があります。黄耆建中湯の効果で建中;中焦すなわち胃腸を建立し、②温煦作用;全身や各組織を温める作用で手指の冷感がとれ、指を震わせて熱産生をする必要がなくなったから震えが止まったと考えます。
又、指が伸びないのは西洋医学では弛緩性麻痺かと思います。東洋医学では『陰寒が多いと生体は縮み硬くなる』と考え、冷えて縮めば神経血管は圧迫されて、局所には循環障害が生じ疼痛の原因となります。反対に『陰が少ないと局所は緊張が無くなり、緩む』と考えます。これが弛緩性麻痺となります。治療法は陰を増やす。黄耆建中湯(=桂枝湯+芍薬増量+黄耆)は建中;中焦すなわち胃腸を建立し、気の五つの作用を増強し、芍薬増量によって陰不足が解消されてバランスが修正され緩みが復元されて、指が伸びないのが改善したと推測します。此の人体のメカニズムを見つけだした古人には唯々敬服するのみです。凄い凄いとしか言いようがありません。!!!

当院について

自然
50歳をすぎて始めた東洋医学の治療効果--西洋医学だけの時よりも患者さんの治り方があきらかに違う。
人が本当に治るというのはこんな治り方をするのかと感激しさらに東洋医学のふかみにはまりました。
整形外科以外の他科疾患--例えば眼科、耳鼻科、精神科、皮膚科などの症例もすこしづつ増えて本当に治っていきます。
そんな方々の声があります。
患者さんと私や当院のスタッフはその事を知っていますが、それ以外の人はほとんど知りません。患者さんの了解を得て『患者のこえ』の作成を思いつき、それを公開しようと考えました。色々やってみたが--、体質とあきらめている。年のせいとあきらめている。等等--東洋医学の門をたたいてもらえれば一助になるかもしれません。

医院概要

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【院長】樋口 理
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