論文タイトル

37.伝統医学を取り巻く最近の国際状況

37.伝統医学を取り巻く最近の国際状況

 

伝統医学を取り巻く最近の国際状況

 

東洋医学ひぐちクリニック

 

第4部会 樋口 理

 

 

医者の8~9割が日常臨床で何らかの漢方薬を使用し、大学の医学部では漢方や東洋医学の講義が最低でも8コマ行われています。がマスコミや日本医師会などは伝統医学についての情報を医療従事者や国民に全く知らせていません。WHOが1980年代に動き始めた事。2~3年前には、ツボの国際標準化が施工された事。現在160ヵ国で、医者が鍼治療をしている事等などーー。
最近の月間漢方療法に2回にわたり、特集がくまれました。
興味のある方にはひょっとしたら、頼もしき情報になるのではと思い、谷口書店の許可を得て掲載します。ご笑読下さい(H.27.4.14)

 

 

1.「日本の伝統医学を取り巻く最新の国際状況」
 ~日本の伝統医学の危機を語る!!~

 

1月31日、日本東洋医学サミット会議(JLOM)及び日本東洋医学会後援でシンポジウム「日本の伝統医学を取り巻く最新の国際状況」が東京・飯田橋で開催されました。

このシンポジウムで座長と講演をされた未来工学研究所の小野直哉先生、JLOMの代表研究者であり東京有明医療大学で教鞭をとられる東郷俊宏先生、そして日本東洋医学会会長でJLOMの議長でもある石川友章先生に、漢方、鍼灸を初めとする日本の伝統医学を取り巻く近年の国際状況について鼎談をして頂きました。

 

 

石川:本当にお忙しいなかお集まりいただきありがとうございました。我々は臨床家として、現場で、煎じ薬の原料生薬の入手が難しく大変困っている状況にあるとか、健康保険の給付の除外が行われるのではないかという目先の問題に囚われやすいのですが、実際には日本を取り巻いているいろいろな条約から大きな影響を受けているのだということを認識しておく必要があると思います。

1月31日のシンポジュウムではこの点をテーマに論じる予定です。なかなか複雑な問題で、本日は専門家の御二方に来ていただいて、この辺を分かり易く解き明かしていただいて、日本の伝統医学を守るためにどうしたらいいかというお知恵をいただければありがたいと思いますのでよろしくお願いいたします。まず東郷先生から、全体の流れがどうなっているかという概略を少しご説明いただいて、あとは小野先生にもご解読と専門の分野をお話しいただくということでいかがでしょうか。

 

 

東郷:私が国際標準化(国際標準化機構:ISO:International Organaization for Standardization)の活動に関わり始めたのは2005年からです。伝統医学の国際標準化は、1980年代にまず鍼灸領域から始まりまして、まずツボや経路の名前等の基本用語の標準化が最初に行われました。それから安全性のガイドラインなど、いくつかの標準が作られたわけですが、2003年にWHO(世界保健機構:World Health Organization)の西太平洋事務局の伝統医学担当医官に韓国の崔昇勲(Choi Seng-hoon)が就任すると伝統医学に関する様々な標準化のプロジェクトを立ち上げました。

まず一つが、ツボの位置の標準化、1980年代に行われた標準化はツボの名前だけでしたので、まずツボの位置を決めようという事で、主に日本と中国と韓国の専門家が集まって議論をしました。二番目に行ったのが用語の標準化です。そして三番目に行おうとしたのが情報の標準化。2005年に始まった情報の標準化では、国際疾病分類、ICD ( International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)の中に伝統医学の分類を入れようという考えがありまして、それはいままではWHO(世界保健機構)のICD11(国際疾病分類11版)の改訂事業の中に組み入れられています。四番目に崔昇勲が行おうとした標準化が、クリニカルガイドラインの作成だったわけですが、これについては、クリニカルガイドラインのユーザーが明確ではないということで頓挫いたしました。そういったことで、この崔昇勲のもとで標準化が達成され、成果として出版されたのは、ツボの位置と、用語の二種類になります。

最初、WHOのこうした標準化に日本として対応する組織が無かったものですから、日本としては、当時、鳥居塚和生先生の御尽力によって、東洋医学会、全日本鍼灸学会、生薬学会、和漢薬学会、WHO協力センターである北里大学、それから富山大学がメンバーとなって日本東洋医学サミット会議を結成しました。略してJLOM(日本東洋医学サミット会議;Japan Liasion of Oriental Medicine)と称しています。これが2005年のことでして、このJLOMをプラットホームにして情報を共有化して人材を国際会議に派遣しようという流れになったわけです。

少し話が前後いたしますが、韓国の崔昇勲のもとで、WHOでの標準化が進められる一方、例えば日中韓で使う鍼の標準化を中国の学会、韓国の国立韓医学研究院の人たちが中心になって進めようとしていました。中国は中国で1980年代から様々な国内の標準化を進めておりまして、これを国際的な会議にもっていこうと考えていたようです。そのときに韓国は鍼の規格をISOに出そうとしたのですが、韓国は鍼の規格をISOの注射針のテクニカルコミッティにもっていき、そこでは却下されます。しかし、これを見て、中国の方も国際化のためにISOが非常に有効な場だというふうに認識したのだろうと思います。2009年の二月に中国はISOに対して、Traditional Chinese Medicineの標準作成に特化した専門委員会(Technical Committee’ 以下TC)の設置を申請しました。ISOでは、各国から新しいTCの設立申請がありますと加盟国に、TC設立の可否を問う投票を行います。日本では経済産業省の管轄になるのですが、厚労省に対して、問い合わせがあって、それから厚労省から今度はJLOMに対して、日本としてどうなるのですかという、そういう風に照会があったわけなのです。

そこで中国がISOに出した申請書類を見てみると、じつにさまざまなことが標準化の対象に含まれている。例えば鍼灸ではWHOですでに標準化が達成されたツボの位置や用語、情報に関しても含まれていました。これに対して日本では、すでにほかの国際機関で標準が作られたようなものを、わざわざISOで標準化する気はない、そもそも医学そのものが標準化の対象になるというのはおかしいという観点から反対票を投じました。ところが投票のふたを開けてみると、反対した国はほかにもあったわけですが、結果的には賛成多数となりまして、ISOはこの新しい専門委員会を作ることを承認したわけです。それでTC(専門委員会:Technical Committee)249、つまり249番目の専門委員会として成立し、昨年2014年は第五回の全体会議が開かれ、日本がホスト国となって京都で開催しました。以上のようなところが80年代から始まった伝統医学の国際標準化の流れです。

 

 

石川:ISOというのはネジやナットなどの工業製品の問題だと思っていたのですが、いろいろ複雑な問題をはらんでいますね。医療機器まではいいと思うのですが、医療そのものというと各国の文化に関わってくるということで、文化まで国際標準化していくというのは非常におかしな話だなと思えます。そういった意味では中国や韓国の考え方を世界標準にして推し進めるのは日本として非常に問題があると思います。医療機器の質の問題は、それは上質のものが必要であろうとは思うのですが、質の問題ではなく、国策として中国はいろいろなことをやっているというのは、日本にとって困る事ではないのかなと、その辺の国際的な状況を小野先生に教えていただきたいと思います。

 

 

小野:いま日本の伝統医学を取り巻く国際環境の現状としましては、少なくとも九つの事柄が起こっています。WFAS(世界鍼灸学会連合会:World Federation of Acupuncture-moxibustion Societies)やWFCMS(世界中医薬学会連合会:World Federation of Chinese Medicine Societies)でも、標準化をしている様ですが、東郷先生いかがでしょうか。

 

 

東郷:そうです、中国が中心になって伝統医学の国際化を進めていくことを目的としている会が二つありまして、一つがWFAS(世界鍼灸学会連合会:World Federation of Acupuncture-moxibustion Societies)、これは一九八七年に設立された鍼灸関係の学会の連合体で、設立に関しては日本が中心となって相当資金面でも多大な貢献をしたわけですが、80年代後半から90年代に運営の主体が中国に移行しまして、世界中の華僑を中心とする鍼を実践している人たちを取りまとめる会になっています。

私が国際標準化に関わるようになった2005年ころは、WFASの会に行きますと、これから鍼はHealth industry(健康産業)のなかで積極的に取り上げていくべきだということが理事会で言われていたことを思い出します。つまり産業の中に鍼灸を位置付けていくのだと、いまから考えるとそのころから中国はこうした規格化というようなことを視野に置いていたのだろうなという風に思えます。

WFCMS(世界中医薬学会連合会:World Federation of Chinese Medicine Societies)、これはWFASが鍼に関する学会であるのに対して、こちらはどちらかといえば薬にウエイトがある会なのですが、ここも世界規模でいろいろな国に支部を持っていて、国際中医師であるとか、いわゆる中医学を普及するため国家資格、こうしたものを企画立案しているところ、それから用語集に関しても、英語版だけでなく、例えばスペイン語版とか、こうした外国語の辞書を作って、中医学普及を進めているところです。

 

 

小野:そうしますと、いま世界で日本の伝統医学、または東アジアの伝統医学をとりまく国際情勢としましては、やはり九つの事柄が起こっています。
まず一つ目は、先ほど東郷先生がお話になられた、もともと工業製品の標準化をする機関ISOですが、そちらで起こっている伝統医学の標準化、そして今お話しいただきました中国が主導で行っている国際的な二団体の活動。東郷先生のお話しにもありました、WHOでの疾病分類の標準化、生物多様性条約という国際条約では、もともと環境保護がメインの条約だったのですが、時代とおもにそれが各国の経済的利益誘導的な国際議論の場になってきたという経緯があり、その生物多様性条約で資源国、主に発展途上国が多いのですが、発展途上国の中にはたとえばインドや中国等が含まれていますが、そちらの資源国にある資源をどう利益配分するか、というような遺伝資源と伝統的知識の利益配分と専門的には呼ぶのですが、その国際的な協議およびせめぎあいが行われているというのが一つあります。

その中に日本の伝統医学にもかかわる漢方薬の原料である生薬の問題、または鍼灸、漢方両方に関わる診断技術やまたは伝統医学の知的財産の問題というのが関わってきます。それ以外に例えば、知的財産のことに関しましては、また別途、世界知的所有期間という通称ワイポ(世界知的所有権機構;WIPO:World Intellectual Propertty Organization)という国際機関は、国際的な知的所有権、知的財産の取り決めをするところで、伝統的知識というものの定義およびそれに関する知的財産の取り決めということを行っています。

さらにWTO(世界貿易機関:World Trade Organization)では、ここにトリプス協定(TRIPS協定:知的所有権の貿易関連の側面に関する協定:Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights )があるのですが、そちらでも遺伝子資源及び伝統的知識、特にこちらは遺伝資源がメインなのですが、遺伝資源の特許または知的財産の問題というものが議論されています。ここにもやはり伝統医学というものが関わっているということになります。
さらに文化的な側面に関しましては、伝統医学というのは先ほど石川先生のお話しにありましたように各国の伝統文化等にもかかわってきます。そうしますと各国の伝統文化のいうものを扱う国際機関であるユネスコ(国際連合教育科学文化機関:UNESCO:United Nations Educational , Scientific and Cultural Organization)も関わってきます。ユネスコで行っている登録事業として、世界記憶遺産があります。また無形文化遺産というのも、ユネスコで行っています。例えば日本の無形文化遺産では、富士山や和食が無形文化遺産に登録されています。これと同じような形で、例えば中国または韓国が、ユネスコの世界遺産関連の事業に伝統医学を登録してきています。例えば2009年には、韓国が世界記録遺産に『東医宝艦』、韓国の伝統医学の古書を登録している。2011年には中国が、世界記憶遺産に登録してきているのは『黄帝内経』と『本草網目』です。これとは別に無形文化遺産に中医学の鍼灸だけを取り出して、この部分をユネスコの無形文化遺産に登録してきている。いずれも2000年代に入ってからで、本当に近年になって、2010年前後に極東アジアの各国がユネスコに伝統医学を登録し始めてきているという動きがあります。

また別に現在議論されている、環太平洋戦略的経済連携協定いわゆるTPP(Trans Pacific Strategic Economic Partnership)、これはいかに環太平洋の中で経済圏を作るか、そのための商取引の取り決めを決める機関、または協議の場なのですが、その協議の場においても生物多様性条約で扱われている遺伝資源、または伝統的知識を協議するということが謳われています。このようにISOだけではなくてそれ以外にも世界的な条約または機関において、伝統医学に関わる事柄、例えば漢方における生薬、原料等に関わる問題、原料にかかわる遺伝資源、あるいは伝統医学が伝統医学たるゆえんである、それを裏打ちしている伝統的な医学知識、これは伝統知識の一部でもありますので、その二つが様々な場所で、標準化、または国際的な商取引における議論の対象ということで議論がされているわけです。いままではそれが個別的かつ独自に議論されてきたという経緯があるのですが、実はそれぞれが最近有機的につながってきているというのがまた一つの問題になって来ている。

例えば、2010年に名古屋において生物多様性条約の国際会議COP10(締約国会議:COP:Conference of the parties )が行われたのですが、この名古屋議定書のなかでは、遺伝資源、または伝統的知識というものに関して、今後、他の条約や国際機関で議論された内容も生物多様性条約では参考にしていくというような声明を出されたということで、一つの条約で決めた事柄が、そこで自己完結するという形ではなくて、他の条約または国際機関で議論されたことが他の条約または国際機関で議論されたことが他の条約に影響を及ぼすという状況に現在なって来ています。例えば、生物多様性条約等では遺伝資源または、伝統的知識というもののオリジナリティがどこにあるか、どこの国を起源とし、どの国に帰属するのかとうことを主張する際に、その起源と帰属を証明するのは、証明したい各国の責任になります。その証明の一つとして、ユネスコ等、世界的に権威のある国際機関で、自国の伝統文化である伝統医学というものが認めらえれれば、それは例えば生物多様性条約においてはその伝統医学がどこの国に所属するのかという時の説明材料になっていく、根拠になるわけです。これまでの個別に専門的に議論させたものが逆に有機的につなげられて、各国の利益を守る一つのストーリーとして使われるような時代になってきた。これは実は2000年以前はほとんどなかったのですが、最近それがとみに顕著になって来ているというのが原状です。

 

東アジアの伝統医学に関わる主な国際機関と条約図1

 

石川:問題は、ユネスコは世界文化遺産だけだと思っていて、一つ一つの個別に考えていくと生物多様性条約に関係したり、TPPにまで結び付いているとは夢だに思っていないわけです。日本には日本の発展過程があり、漢方エキスの分量や臨床の知見などは湯本求心先生の『皇漢医学』という日本の古典医学書の中に書かれています。これらが戦前に中国や韓国で出版されて現在のベースを作っているという事実があります。これらが戦前に中国や韓国で出版されて現在のベースを作っているという事実があります。それがもっと古い形が原典のみだということになると、日本の文化にとって非常に大きな問題になると思うのです。そこを行政や関係する方々にきちっと理解をして頂いて、日本の国策に基づいた方策を作って頂く、それが今回のシンポジュウムでも大切だろうと思います。

 

 

東郷:歴史的なことをもう少し振り返ってみますと、やはり伝統医学が近代化の中でどういう風に生き残っていくのかというのを非常に、これは日本にとっても中国にとっても韓国にとっても大きな問題だったと思うのです。日本も皆さんご承知のように明治時代に漢方が正統医学の座から追われて非常に暗い時代を送った過去がございました。湯本求真先生の『皇漢医学』をはじめ、伝統医学復興のための本がかかれるようになって、少しずつ先生方がご尽力されていまの漢方医学の礎を築かれたわけですが、やはり同じように中国、韓国でも伝統医学が戦時中から戦後にかけて危機に瀕した、時にバイブルとしてやはり使われたのが、『皇漢医学』だったわけです。鍼灸の領域でも、多くの日本の鍼灸の本が、中国語に翻訳されて、新中国成立直後の中国では盛んに使われてきました。

中国はその後文革を迎え、伝統的な文化が多方面にわたり壊滅的な打撃をこうむりますが、一方で唯物論にもとづく新しい伝統医学の理論として中医学を構築していきます。また1972年の米大統領ニクソン訪中時鍼麻酔報道により、欧米でも一種の鍼ブールが起こり、世界中から中国の「伝統的」な医学を学ぼうと多くの人が訪れるようになるのです。やがて1980年代に開放路線を取るようになると、伝統医学が国際的にビジネスになる分野だということが、徐々に認識されるようになってきたのではないかと思います。韓国でも国立韓医学研究院が作られ、韓国における漢医学のリーダーシップをとっていきます。中国、韓国ともに国がサポートして伝統医学を国内でまず振興させ、国際的にもそれを売り出していく。そういう国内、国外二つの領域において伝統医学の振興を行ったわけです。

一方日本の方は、漢方の領域に関していえば、医師の九割近くが漢方薬を使っているというデーターはあるものの、特に国外において自分たちの伝統医学を積極的に普及させていたかなくてはいけないという、内的な要求があまりなかったという事情もあると思うのですが、こうした国際情勢に対しては非常に疎かったと思うのです。ですから中国や韓国の規格レースに乗り出しているという現状がなかなか掴みにくかったのではないかと思います。

 

 

石川:伝統医学というとその国の文化ということで、その文化をきちっと守っていれば伝統医学も守られるのだという、思い込みが非常に強かったのではないでしょうか。世界標準化という言葉の中に、それが本来あるべき範囲を超えた形で文化事業、医療問題が関わってくるということを知って、非常に難しい問題だという危機感を感じますね。自分たちが守る領域をしっかりと自分たちで確保しないと、その歴史すらもなくなっちゃうのだからという危機感が最近とみに強いものですから、今後どうすればいいのか。小野先生いかがでしょか。

 

 

小野:はい。漢方や鍼灸のような日本の伝統医学は、由来は中国であったとしてもその後日本で独自に発展し、和漢薬と呼ばれる漢方の薬草を使った処方、または和鍼といった、日本独自の鍼管法を使った、髪の毛の様に細い針を用いる施設など、細かいディテール等を見るとやはり韓国とか中国とも全然違います。それは日本の風土、または日本人の体質や感覚、センスともにいう育まれてきた歴史的産物といっても過言ではないと思います。ただ、それを前提とした臨床を、今後もやっていくということにプラスアルファ―をこれからの時代は考えていかなければいけないと思います。例えば漢方等の臨床、または日本の伝統医学の臨床に携わっている方々は、漢方、または鍼灸等の日本の伝統医学が、日本の伝統医学だと普通に認識されていると思いますが、では果たして一般的な日本の伝統医学と認識している人がどのくらいいるのかということです。

例えば一般的な方に聴くとやはり漢方の本場は中国だよねとか、鍼灸の本場は中国だよねとかいう方もいらっしゃいます。また以前    NHKのテレビで人気を集めた『宮廷女官チャングムの誓い』等で有名になった韓医学というものもあります。ああいうテレビの影響などを受けた方々は、漢方の本場である韓国に行って、ツアー等を組んで治療を受けてきたとか、そういうことを言ってはばからない方が多々いらっしゃるわけです。そうすると直接日本の伝統医学に関わっていらっしゃる方は、自分たちがやっていることが日本の伝統医学であって伝統文化だと思っているかもしれませんが、それ以外の外の方々、一般の方々および、政府とか行政の方々も含めて、日本の伝統医学を果たして本当に日本の伝統文化であって、伝統的医療資源ととらえているか、そこが一番大きな一つの関門なのではないでしょうか。国際的な状況というものは単なる伝統医学の専門家が対応するだけではなくて、政府機関の方とかまたは行政の方等も、関わってくる話ですし、例えば海外においては中国、韓国では実際に政府の代表団が国際交渉の場にくるわけです。ところが日本の代表団は、政府の方というよりも学術や企業の方が中心となった代表団で、確固たる日本の伝統医学を日本の伝統文化と位置付けているようにはみえない国が、日本の伝統だといっても説得力に欠けます。ですから、日本の伝統医学への一般の方からの支援、違う言い方をすると応援団といいますか、そういうような世論形成をしていくということも非常に重要なのではないではないかと思います。

 

 

石川:行政の見方、あるいは応援団の見方によって和食がユネスコの世界文化遺産になったりするわけです。漢方の治療法なども文化だし、鍼管法というのはやはり日本の誇れる文化遺産でなければいけないのですが、日本人はどちらかというと慣れ親しんで常にあるものはそんなに価値はないという風な発想をして、粗雑に扱う傾向が多々あると思うのです。(笑)やはり我々が持っているちゃんとした文化を維持していかないと、やはり国が亡びてしまうと。ちゃんとしたインターナショナリストになるためにはちゃんとしたナショナリストでないといけないのではないかと私は思っています。自国の優位性が何なのかということを理解しない限り国際的には通用しないだろうと思います。隗より始めよではないが、まず内から、国民の中から理解していただかないと困ります。
言葉一つでも「中国漢方」などという言葉はないのです。漢方は日本独自の単語であって、中国の医学ではあっても「中国漢方」というものはない。言葉でごまかされている。そういった意味では言葉をきちっと使うということも非常に重要ではないのかなと思います。そう言った意味で先生方に一生懸命啓発していただくには現在非常に重要な時期であって、JLOM(日本東洋医学サミット会議)が四学会と二つのWHO協力センターで日本の伝統医学の国際的な受け皿として作られた経緯がありますが、いま世界の激しい状況変化に対応するために、「日本東洋医学機構」(仮称)という組織に改組して、我々の叡智を日本に残して日本の医学をますます発展させるための組織を作ろうと今小野先生とそれから東郷先生と動いております。ぜひとも読者の皆様には、こういう状況があるということをご認識いただいて、積極的な参加をしていただければありがたいと思っています。

 

月刊 漢方両方 Vol.18 No12(2015-3)
たにぐち書店より引用

 

 

 

2.「日本の伝統医学を取り巻く最新の国際状況」2
~日本の伝統医学の危機を語る!!~
(承前)

 

東郷:伝統ということで京都のお話をさせて頂きますと、よく京都は伝統的な文化を残しているところだといわれますが、戦国時代から近世に入ってくると、古いものを守るというよりは、新しいものを触れる最前線になってきます。祇園祭の山鉾巡行で引き廻される山鉾はさまざまな美術工芸品で装飾され「動く美術館」ともいわれていますが、この山車に飾られるのはポルトガルなどから輸入されたタペストリーだったりするわけです。当時最新の船来品です。そういう新しいものを取り入れていく中で、自分たちが守る伝統が作られていく。京都というのはそういう形でずっと進化し続けていて、いまでも京都が伝統的な街たりえるものは、京都の中心にいる人たちの眼が常に国際的なものに向いているからだと思います。

 

 

石川:京都会議でもいろいろ提案がなされ、舞妓さんを援助するなどの提案もありました。

 

 

東郷:日本の伝統医学の世界に少し足りないと思うのは、やはり国際的な視野の中で、自分たちの優れているところはどこなのかということを常に見出していく。その際に新しいものを取り入れながら、良さを見出しいていくというものを取り入れながら、良さを見出していくということだと思います。日本はエキス剤の製造にしても、新しい技術をたくさん創出しているわけですけれども、いいものを造ればいいと、そこで止まってしまうものなのです。それをさらに発展させて、普遍的なものにしていくという視点がどうしても欠けているというところがある。これが非常に大きな問題だと、いつも思っています。

 

 

石川:もう一つ、京都の面白いところは、非常に古い街で、伝統的なしきたりは決して崩していないところです。それを守ることによって、その制約の中から新しいものが生まれてきれている。制約は制約としてきっちっと守る。そういうけじめというのはやはり日本の持つ独特の力だと思うのですが、現在、東京なんかでは、そういう制約が崩れてきている。適当に流行に合わせればいいのだという形になっています。ですからそういった意味で、京都のようにしっかりと伝統を守っているところは、やはりある部分では古めかしい、古典的なものがあって成り立っているところがあるのではないかと思います。その守るという意味で、京都へ行くと、とても素晴らしいのだけれど、一見さんお断りとか、(笑)そういうところもあるし、やはりそれによって自分たちが守るべきものはしっかり守り、それを加工して新しいものを提供していくことで、人を引き付けていくというあり方が日本の持っている力を引き付けていくというあり方が日本の持っている力の原点かなという気がするのですが、どうですか。

 

 

東郷:そう思います。

 

 

小野:実は京都は、ベンチャー企業が多いところなのです。いくつかの有名なベンチャー企業があります。オムロン、島津製作所、有名なところでは京セラです。非常に古くて伝統を重んじる街なのですが、先ほど東郷先生がおっしゃったような新しいものと接触して、それでうまく過去の自分たちの蓄積してきた知識なり伝統なりを融合させて新たな価値を見だすというのか、創造していき、ハイブリットなものを造りだして価値を高めていくことが絶えずやってきました。それは本来日本人がもともと持っていた国民性といいますか、得意とするところなのだと思います。

 

 

石川:日本はキメラ(生物種が混合した怪物)にはならないと思うよ。要するに主体はしっかりありながら同化して自分たちの物として表現している。その原点は非常に強く、揺るがないという気がしています。

 

 

小野:結局、日本の伝統医学もそういう日本の国民性が育んできたものであって、それは中国にもないし韓国にもない要素とか、知識的な体系も含んでいると思うのです。それを今後、どう公正に評価するかです。伝統医学に関わる我々自身が、自分たちがやっているのは実は結構すごいことなのだと、正当に評価することをやらなければいけません。

 

 

石川:本当にそうですね。日本人は自国の物を正当に評価することが非常に弱いというのか、苦手なのではないかと思っています。

 

 

小野:もっと謙虚に威張っていいのではないかと。(笑)日本人は謙虚だから。

 

 

石川:中医学に対しても非常に日本人の特性ということを考えます。中国の医学をいろいろ学んで、基本的には自分たち日本人の体質に合わせた形で中医学を咀嚼して、新しい形の中医学を作っている。そういうこともあると思うのですよ。ただ国際条約の場合には、こちらのそのような思い込みとはまた別の世界で動くから、やはりきちっとした条約を作り、守らなければいけないということは守らないといけないと思うのですが。

 

 

小野:自分たちを正当に評価できないと、実は国際社会においてもきちんと主張はできません。自分たちの足元が明確でないといけない。自分たちがやっていることを正当に評価し、そのうえで主張していくことが重要だと思います。そのことを我々がこれからどうやっていくかです。

 

 

東郷:よく伝統医学のことを論じるときに日本文化との関連で論じるわけですが、例えば石川先生、日本の漢方薬は、日本人だけではなくて、中国人でも、アメリカ人でも、アフリカ人でも効きますでしょう。

 

 

石川:スペインの修道院に頼まれて、日本でスペイン人のいる修道院を、修道院というより養老院のようなところに往診に行っていたことがあるのですが、スペイン人でもよく効きますよ。

 

 

東郷:そうです。

 

 

石川:中国人にも効くし、私もフランス人やドイツ人も患者がいますけれども、言葉は分からないです。日本の漢方の診療法と腹診を使うと、生体情報をしっかり把握できて、この人の生体情報はこうなのだということが分かり、処方がしっかりできます。
日本の腹診法というのは客観情報を取るための非常に優れた手段ではないかと思っていますし、これを世界標準にした方が、実は世界の健康福祉のために役に立つ先兵になるだろうと思います。
私はよく言うのですよ、口と顔は嘘をつくが、脈とお腹は嘘をつけないと。客観的な生体の情報を得るには、患者の言っていることをうのみに聞いていてはいけない。患者は見栄も外聞もありますから、決して自分の情報を全部そのまま伝えることではありません。気持ちが悪い、調子が悪いと言っても、確かにそうだとしても、それが具体的に何を表現しているかということは、患者の身体に問わなければわかりません。患者と会話をやって言葉の情報だけでなにかが分かるかというと、それは大変難しいと思います。しかし、脈を診たり、お腹を診たりすると、明確にその人の生体情報を把握できます。そういう生体情報を得る日本漢方というのは素晴らしいものであって、その修練をしっかり身に付ければ十分に有効な方法ではないかと思っています。はやり自分たちが持っている医学に対して自身とプライドを持つことが絶対に必要ではないでしょうか。

 

 

東郷:いまのお話を伺って、日本漢方といいますが、どの国の人にも効くわけで、要するに日本漢方は世界漢方でもあるのだという思いを強くしました。

 

 

石川:まさにそう言いたいですね。

 

 

東郷:ともすれば、いまは、中国、韓国が文化論争みたいな形で国際標準を争う闘争の形を取っているわけですが、患者さんの立場から見れば普遍的に効く伝統医学に関心があるわけです。そのステージに立って、日本の漢方は、日本の伝統文化の中で育まれていますが、実は普遍性を持った世界漢方なのだということを世界にアピールしていく必要があります。

 

 

石川・小野:大賛成です。

 

 

東郷:まさにこういう表現で国際会議に臨んでいくべきだと思います。ユネスコに登録されるされないといっても、国の誇りにはなるでしょうが、患者にとってはあまり意味はありません。誇りたくはなるでしょうが、伝統医学の継承者が、逆に医者になってしまったら、硬直した過去のものになるわけで、それはある意味、伝統医学の死を意味しています。

 

 

石川:化石化だよね。

 

 

東郷:そうです。登録されることで固定化される。やがて本当に伝統的なものが消えてなくなり、語り継ぐ人がいなくなっていく、そういう時代とオーバーラップしながら標準化の波が強くなっているのが現代だと言えます。

 

 

石川:だから伝統的な知識というのはそう簡単に、伝播できない。標準化だとかそういう言葉で分かり易く簡便に伝えたいという意欲があるのかもしれないですが、やはり簡便ではないし、簡単ではないですよ、伝えていくということは。

 

 

小野:いまの伝統医学に関する国際情勢の影に見え隠れするのは、一つは経済活動なのです。産業化、伝統医学の商品化です。

 

 

石川:商売ですね。すくなくとも中医学の基本は西洋医学の概念でやろうとしています。西洋医学の概念というのは治療学でなく、博物学なのです。博物学の説明論理はありますが、治療学としての論理はない。例えば糖尿病でも、インシュリンが膵臓から出て血糖をコントロールするという事実は生物学的な事実なのですが、インシュリンを与えて、即、次の日に糖尿病が治った話はありません。それは全然違った理念上の話であって、治療学ではないのです。治療学は何かということを考えたときに、それは非常に大きな問題が起きます。熱を下げればインフルエンザが治るかというと決して治らない。
例えば、治療学という概念がないから、血圧をコントロールすればいいと考える。それは治療とはいえない。一番可哀想なのは臎原病です。ステロイドさえ与えていれば何とかなる。でもどうなるか確実なことは分からない。
治療学は何かということが、いま一番重要なテーマだと思います。治療学は何かというと問うた時、漢方が一番の治療学だと言えるのではないでしょうか。鍼灸でも漢方でも、いわゆる治療学として存在しています。そのことをはっきりさせる必要があります。
西洋医学や中医学といは方法は違いますが、十分きちっと連携してやっていけば治療学の大系化はできます。体系化していって一つの合体した形が取れると思います。体系化の一つが保険制度です。例えば私は、鍼灸師もきちっとした資格を持ち、保険の中でどういう動きをするのか。営業保険に入りたくない鍼灸師もいて、それに反対しているようですが、国民のニーズに応えるにはやはり高い鍼灸師、経験の高さが治療価値を決めていくわけであって、なんでもかんでも価格が安ければいいという問題ではないと思います。もっと広く大きく治療に貢献する方法論は、いまは保険制度かなと思っているのです。

 

 

小野:正当な医療制度というと、例えば中国とか韓国、インド、またはベトナム等のように伝統医学を正規の医療システムに取り込んでいる国があるわけです。そこは法律で体系化がされているわけですから、国によって保険制度が十分でない国もありますが、例えば韓国などは日本の保険制度が植民地時代に敷かれているわけです。韓国の保険制度が植民地時代に敷かれているわけです。韓国の保険制度は日本をひな形にしていますから、結局そういう国では伝統医学も正規の医療として認められるということです。ここで気を付けなければいけないのは、日本の医療保険制度に正規なものとして認められることは、その制度に取り込まれていくということも危惧しなければいけないと思います。自由度がなくなるのではという問題です。

 

 

石川:ただ、経済的に恵まれなくてそのために死んでいった人たちもいるわけですから、保険制度がそれを担保してあげるということは非常に重要なことでもあると思います。飢餓だとか餓死などで、明治期に多くの人が死んでいった。それを保証するというのが社会保障だから、それは守るべきですが、医療保険に甘んじてしまったところがあります。

 

 

東郷:いつも思うのですが、十九世紀の終わりから二十世紀の頭にかけて、西洋医学ではさまざまな治療薬が開発されましたが、治しているわけではなくて、実は症状を消すだけの対象法の薬なのです。いつも思うのは、近代化の中で私たちは自分の身体はどういう治り方を欲しているのかという、治り方のイメージです。例えば漢方薬を飲んで、汗を出して熱が下がっていく、そういう自分の身体の中にある力を使って治って行く。そのプロセスのリアリティというのがどんどん失われていき、頭痛薬で頭痛が消える、そういう治り方のイメージ再生産されている。医療というのは、薬を飲めば治る、そういうものなのだというイメージがずっと再生産されていっています。患者さんの潜在意識の中にある隠れたイメージというものはとても厄介なものだと思います。

 

 

石川:はっきり言うと、心の問題を今の医療は一切無視している。いま世の中を見ていても、ここ十年ハラスメントが強くなっていて、みんな三十過ぎると鬱傾向がでてきて、だいたい四十代になると鬱になっちゃう。脈診るでしょう、昔は沈微の脈なんてめったにないのです。でも、いまは相当沈微の脈がある。これは精神的な落ち込みを意味しているのだから、脈を診ただけで、初診からあなた人生つまらないでしょう、こんな人生やっていられないと思うでしょう、と言うのです。「はい」答える素直な人もいるし、笑って、「いやあ」という人もいるけれど、実はそうでもない。顔も言葉も嘘をつくのです。見栄もあるし、外聞もある。それを今の医療者は、患者の見栄も外聞も無視してしまっています。実は、患者の現実、実態を把握しないと医療者ではないのです。医療は大変なのですよ。(笑)ところが西洋医学ではそのような面には一切触れないから、相手の見栄とか外聞は、コンピューターの画面上には現れてこない。大学で学生の診察を見ていますが、患者の心を見ていない。パソコン上のデータを見ているのです。確かに画像診断で身体のことは全部見える。だけど一番大切な心は見えない。患者は症状などを話します。でも本質は違う。本質を見るためには生体反応を正確に見るしかない。それをしないからわからなくなる。そうなるといろいろな検査をやっても何も出てこない。いま本当に医療の危機だと思います。

 

 

小野:ある意味、日本の伝統医学を通して見えてくるものがある。それは、日本の現状の鑑みたいなものです。

 

 

石川:本当におっしゃる通りだと思います。実は見えている。いま伝統医学を通して日本医療の実態が明確に映し出されているということが、やはり伝統のすごさなのだろうと思う。そしていまの現状をどうするのか、もう一回洗い直しましょうと。西洋医学は何なのか、漢方医学は何なのか、洗い直しをすることによって、日本の医療がもう一回再生するのではないでしょうか。

 

 

小野:それを乗り越えないといけない時代になっているのでしょう。さらに、いままでとは異なり、これからは少子超高齢・人口減少社会です。少子化と超高齢化に伴い、人口が減少し、成熟していく社会をどう生きていくかが最も重要になってきます。これまでの若い人が中心の社会ではなくなってくるわけです。当然医療も変わります。従来の西洋医学的なものというのは、どちらかというと若い人が中心の社会において、健康体に、元へ戻すということでした。若い人はリカバリー力も高いですから。でも超高齢者社会は、当然圧倒的に高齢者が多いので、リカバリー力に期待できません。

 

 

石川:テレビを見ていたら生活不活発病といっている。そんなものは病気でも何でもないのです。昔は、廃用性筋委縮症候群と言っていたのだけれど、要するに身体を動かさくなっているだけ。現代の便利さが、動かなければいけない自分の本来持つべき身体能力を削ってしまっているわけです。人間は動物なのだから動かなければいけない。人間がやっているのは何かというと、食って寝て、排せつして、体を動かしているしかない。
 一番やるべきことは食うことで、そのなかで一番は噛むこと。噛むことをしっかりしていれば、免疫系はしっかり担保できる。噛まないから免疫系が担保されない。いまアレルギーなど免疫系の病気が増えているのは実は噛んでいないからです。噛むという教育はどこかでやっているかというと、実は全然やっていない。
 東京都医師会の編集委員長をしていると、時たま長い文章を書くことが多くなる。そこでテーマを養生とは、と考えたときに、小学校の教科書では養生について何を書いているのか調べてみたわけです。小学校と中学校の教科書を買いました。でもなにも書いていない。生殖についてはくわしい。精子は、卵子は、セックスは、そういうのには興味があるようだ。(笑)でも養生というのではない。ものを食べる、単純なことを言っているのだけれど、食って寝て、排せつして、というのは人間の基本的な行動です。なぜこの話をするかというと、お年寄りが必ず訴えてくるのは、食べられない、眠れない、便秘だと、おしっこ近い。つまり食って寝て、排せつして、それだけなのです。大した事やっていないのです。そして運動として何があるかというと、噛むこと。結局、あなたは噛むのが足りないと言う事に落ち着く。

 

 

小野:西洋医学は治す医療ではないのでは。

 

 

石川:西洋医学は説明の医学です。生物学を利用していろいろな説明をするけれど、説明して治るのだったら苦労はしませんよ。検査して治るのだったら、山ほど検査してください。検査は実態を表現しているだけで、治すことではない。言葉で説明しているのとまったく同じです。いまの医療というのは説明だけしていて、治していない。治療学をしっかりやっていないということになります。

 

 

小野:また西洋医学の中には、例えば、感染症や疾病の予防はありますが、本来、いわゆる健康増進や予防、養生という考えはないです。

 

 

石川:噛むことによって免疫が高まります。殺菌作用の活性化も強くなって、当然ウィルス感染、細菌感染も減る。よく噛んでいないから感染するわけです。そういう話を患者が来るたび、来るたびに患者にするのです。この努力凄いでしょ。(笑)あんた噛んでないでしょと、すぐわかるから。噛んでない、噛んでないと、繰り返しています。

 

 

東郷:これは学生によく話をするのですが、1853年書かれたナイチンゲールの『看護覚え書』の中で、ちょうどその当時は、病理学が発達した時期でしたから、病理学の近年における発達は目覚ましい、しかしながら病理学は病気の結果起こったことを知るには便利だけれど、病気の変化の中で、なにを手掛かりにその病態をつかめばいいのか、そういうことについては何も教えてくれないと、むしろ患者を診るときの観察力が減退していることを述べています。現代にも通じる言葉だと思います。

 

 

石川:今のCTスキャン(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像検査)ができたことによって患者が全くみえなくなりました。ある意味では伝統医学の危機でもあり、西洋医学の危機でもあると思います。

 

 

小野:日本は確かに困難な状況にありますが、逆にチャンスなのではないかと。

 

 

石川:そういう意味では。

 

 

小野:それを新しく打ち出していける、ただ問題解決をどうしていくかということ。

 

 

石川:だからいかに我々が、これから日本伝統医学機構の機能を発揮して、皆さんの眼をばしっと見開けるような広報宣伝活動をやっていく一つの大きなチャンスではないかと思います。これからもいろいろなことを喋るつもりですが、いつも行きつく先は一緒です。

 

 

小野:そういうものをひっくるめて、新しく改組される新生の日本伝統医学機構を考えていきたい。それだからこそ意義がある組織なのです。

 

 

石川:これから世界の健康を発信するのはどこか。少子高齢化の日本です。少子高齢化で社会機能から何もかも全部衰えた中で健康を維持し、自分たちの豊かな生活を維持する健康の在り方は何か。実はそれが伝統医学であると。

 

 

東郷:伝統医学機構は、いままで漢方を指示する国民の皆さん、鍼灸を支持してくれる国民のみなさんの要望に応える形で、活動を続けていきたいと思います。これから訪れる未曽有の少子高齢化社会。試練の時ではありますが、伝統医学こそが乗り越えていく底力を持っていると信じます。

 

 

石川・小野:大賛成です。

 

 

(おわり)

 

月刊 漢方療法 Vol.19 No1 (2015-4)
たにぐち書店より引用

 

 

■石川友章(いしかわ・ともあき)

昭和18年生まれ。昭和四十五年、東京慈恵会医科大学卒業、医学博士。東京慈恵医科大学付属第三病院内科、富山市立中央病院内科科長を経て、東京日野市に石川クリニック開業。昭和63年より山田光胤に師事する。現在(医)(社)方伎会理事長、同石川クリニック院長。日本東洋医学会会長、指導医、東京都医師会編集委員会委員長、慈恵大学客員教授、日本臨床漢方医会監事。

 

■東郷俊宏(とうごう・としひろ)

平成3年、東京大学文学部卒業。平成10年、明治鍼灸大学大学院修士課程修了。平成10年、京都大学人文科学研究所助手(科学史教室)。平成13年、京都府立医科大学非常勤講師(~15年)。平成13年、Needham Research Instotute 客員研究員。平成16年、鈴鹿医療科学大学鍼灸学部助教授。平成21年、東京有明医療大学 保健医療学部准教授(現職)。平成22年、順天堂大学大学院医学研究所 終了、博士(医学)取得。

 

■小野直哉(おの・なおや)

明治鍼灸大学(現・明治国際医療大学)卒業後、明治鍼灸大学付属病院卒業研修生、京都大学大学院人間・環境学研究科、京都大学大学院経済学研究科、東京医科歯科大学大学院修士課程を経て、東京大学大学院医学研究科博士後期課程在籍中に、医療経済研究機構リサーチレジデント及び協力研究員、先端医療振興財団科学技術コーディネーター等に従事。現在、公益財団法人未来工学研究所主任研究員、Senior Executive Research Fellow , International Institute of Health and Human Services , Berkeley, U.S.A., 明治国際医療大学非常勤講師兼務。

当院について

自然
50歳をすぎて始めた東洋医学の治療効果--西洋医学だけの時よりも患者さんの治り方があきらかに違う。
人が本当に治るというのはこんな治り方をするのかと感激しさらに東洋医学のふかみにはまりました。
整形外科以外の他科疾患--例えば眼科、耳鼻科、精神科、皮膚科などの症例もすこしづつ増えて本当に治っていきます。
そんな方々の声があります。
患者さんと私や当院のスタッフはその事を知っていますが、それ以外の人はほとんど知りません。患者さんの了解を得て『患者のこえ』の作成を思いつき、それを公開しようと考えました。色々やってみたが--、体質とあきらめている。年のせいとあきらめている。等等--東洋医学の門をたたいてもらえれば一助になるかもしれません。

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