38.東洋医学の小経験ー医師会事務の方が取り持った1例ー
38.東洋医学の小経験 ー医師会事務の方が取り持った1例ー
東洋医学の小経験
ー医師会事務の方が取り持った1例ー
東洋医学ひぐちクリニック
第4部会 樋口 理
2015年2月24日、医師会よりFAX。
39歳男性、不安症にて2年間心療内科にて治療され、西洋医学の治療の副作用に苦しまれた為に、漢方治療を求められました。自信はありませんでしたが、どうにかなるかもと考え、治療がはじまり3か月後の5月末でかなり良好で当初の3/10です。患者様の了解を得て、どのような経過をとったか一部始終を報告いたします。患者様は西洋医学の治療と比べて、こんな治療法があるなんて知らなかったと言われました。
東洋医学治療の醍醐味が隠されています。
FAX:2015年2月24日
八女筑後医師会 ご担当者様
すみませんが、このメールを「東洋医学ひぐちクリニック」に転送していただけないでしょうか。ネットで探しましたが、検索できませんでした。
ご面倒をおかけ致しますが、よろしくお願いいたします。
東洋医学ひぐちクリニックご担当者様
初めてメールします。
(1)伺いたいのですが、貴院で不安神経症の漢方薬の処方はされているでしょうか。
返事;処方は色々あります。
貴方にあう処方を探すという一連の作業があります。
服用してどうかで、フィードバックしてもらいます。
(2)私、10年ほど前、不安症により2年ほど心療内科にかかっておりました。その後、好不調の波はあるものの社会生活を送っておりますが、時折来る不調期は人と会うのが億劫になったりやる気がでなかったりで結構つらいです。
返事;不調の波は、本人の体質やバランスの問題→漢方の得意分野です。
簡単な気の問題であれば、鍼治療が速効です。
(3)前の通院後も断薬では大変な思いをしましたので、漢方ならば不調時の対応ができ、かつ薬をやめる際のリスクがすくないのではと考えています。
返事;その通りです。
人間の体、細胞は草根木皮、蛋白質、微量元素で出来ており、西洋薬(化学合成薬)では、出来ていません。
断薬ー合法的麻薬(?)からの離脱ー大変ですが、皆さん徐々に抜いて漢方薬と入れ替えてあげると浮かび上がってこられます。
(4)もし、漢方だけの処方が可能なら診察をおねがいしたいのですが可能でしょうか。
返事;当院は漢方のみで、化学合成薬はゼロです。
昔は、薬は草冠で飲んでいると体調がよくなり楽しくなっていました。飲み続けは治さない治療法。異物(化学合成薬)が入ると人体は冷えます。
【1】初診;2015.2.25
毎回受診時に、詳細なメモを持参されるので、ポイントがはっきりしやすいと思います。
(メモ)
10年前の心療内科通院(2年間)から今日まで
・心療内科では、特に疾患名は告げられず、「抗うつ剤、睡眠導入剤、抗不安剤、躁うつ薬」の処方がされ、適正に服用していた。
・最悪期は脱したものの、好不調の波があり、不調時は会うのが億劫で何事もやる気がでず、生活に支障をきたす。休業することはない。
不調時の状態
睡眠に関して
パターン①ーー支離滅裂な思考状態のまま、朝までまどろんでいる感じ。寝た気がせず、その日は一日中だるい。
パターン②ーー3時間ほどはぐっすり眠れるが、朝方、動悸が激しくなり体全体があつくなっている感じ。それ以降は眠れない。
行動への影響
・人と会いたくなる(ストレスを感じる)
・思考がまとまらず、人との会話を理解するのが困難になる。
・文章の意味を理解するのが困難になる。
・物覚えが悪くなる
・物音などに容易に驚いてします
・体をよくぶつける。フワフワ歩く感じ。
・常に音楽が頭をめぐっている時がある(とまらない)
治療;
・陰性食品(麦茶、コーヒー)の制限を指示し、鍼治療は調気;四関穴、三気海、顎背部の凝りに置針。漢方薬は気血両虚、虚陽上浮などして人参養栄湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、酸棗湯の味を教えてと説明す。味と症状の経過で漢方薬を絞り込んで行くと説明。経過の長い方のモチベーションをあげる共同作業です。
【2】第2診;20015.3.3
(メモ)
新たに始めたこと
・漢方薬の服用
・麦茶から白湯への切り替え、及びコーヒーの絶飲
・耳の後ろのツボ刺激(不眠症のツボです)
体や精神の変化
・診療後2日ほど頭痛がした。
・人と話すとき、以前ほどストレスを感じなくなったような気がする。
睡眠について
・入眠に苦労することはないが、3時間ほどで寝て激しい動機で目が覚める。
此のことは依然と変わらない。
漢方薬の飲み易さ
・人参栄養湯、酸棗湯;△
桂枝加竜骨牡蛎湯;◎
治療:
・桂枝加竜骨牡蛎湯をメインにして処方を考えて行くと説明。鍼治療施工。漢方薬は枝加竜骨牡蛎湯を主に、補中益気湯と抑肝散と甘麦大棗の味を教えてと説明。
【3】第3診;2015.3.10
(メモ)
体や精神の変化
・前回の診療後、3日ほど頭痛がした。
・朝昼夕の漢方薬が切れた2日間は、人と会うのが非常につらく感じた。何年かぶりの嫌な感覚だった。
睡眠について
・覚醒時に起こる動悸の程度がだいぶ小さくなった。
漢方薬の飲み易さ
・甘麦大棗>抑肝散>桂枝加竜骨牡蛎>補中益気湯
治療;覚醒時に起こる動悸の程度がだいぶ小さくなっているのは、桂枝加竜骨牡蛎湯が効いている証拠と説明。鍼治療施工。
【4】第4診;2015.3.23
(メモ)
心身の変化
・近年になく調子のいい日が続いている。
・仕事以外での外出の機会が増えた(釣りなど)。
・ただ、飲み会があった翌日からから2日ほど調子を崩した。
睡眠について
・だいぶ改善したと感じる。
・明け方前の覚醒は依然としてあるが、それに至るまでの睡眠時間が通院当初より1時間程伸びた。(熟睡感が得られる睡眠時間;3時間→4時間)
・覚醒時の動悸の程度は日を得るごとに減ってきている。
・入眠困難の事象の発生は一度もなかった。
新たに始めたこと
・お灸(足三里に毎日1回)
治療;かなり調子が良いので、桂枝加竜骨牡蛎湯の兄弟分にあたる小建中湯という漢方薬を進めてみる。腹診で腹直筋の所見が似ているし、虚労とも考えられるのでと説明し、納得のもとに処方変更。
【5】第5診;2015.3.30
(メモ)
小建中湯について
・飲んだ初日から、腹痛と頭痛が始まった。
・4日目に頭痛がピークになった。我慢できないほどだったので、自らの判断で小建中湯をやめた(クリニックが休診日だった。)
・睡眠の質が少し悪くなったように感じる。
薬についての希望
抑肝散、桂枝加竜骨牡蛎湯、補中益気湯の組み合わせが今までの所一番良い。
治療;母親に処方渡す
【6】第6診;2015.4.3
(メモ)無し。
処方を戻してからは、調子が良い。動悸もない。
現在の状況は当初の5/10との由。元来の自分のハツラツサがないとーー。
治療;小建中湯を服用しての不快は瞑眩かもしれないと詳しく説明。自分のハツラツサの為再度1回/日小建中湯を1週間してみようと説明し納得される。
【7】第7診;2015.4.15
(メモ)
・小建中湯を再度飲み始めたが、前のような頭痛、腹痛は起こらなかった。
・調子の良い日が1週間と少し続いたが、不眠が一度起こったことを機にとても調子がすぐれない脾が3日続く。その後持ち直すも全快とまではいかない。
・1か月ほど晩酌をしていなかったが、不眠が起こった日に久しぶりに酒(日本酒2合)不眠の原因として思い当たるのはこれくらい。
治療;鍼治療は同じ。
・桂枝湯は桂枝加竜骨牡蛎湯の母体にあたる処方なので、気血のバランスを取ってくれる。1週間1回/日服用を進めて納得される。
【8】第8診;2015.5.2
(メモ)
・1回の不眠を機に調子を崩したことがあった。それから3日程、日中の不調と夜間の不眠が続いた。
・睡眠時に動悸が起こることはなくなった。
不眠が起こるきっかけ
・日中に調子が良くても、就寝前に軽躁を感じる時に不眠が起こるようです。
漢方薬に関して
・最近、抑肝散が飲みにくくかんじるようになりました(まずい感じ)
・桂枝湯を1週間飲みましたが、特に心身への気付きはありませんでした。飲んだ時の味は、甘さと同程度の苦味を感じます。
治療;鍼治療と棒灸施工。
漢方薬は味がかわれば、変え時と説明。証が変わった証拠。甘く感じるのは当たりと説明。虚の不眠と思うので酸棗湯を投与。もしもに実の薬を出すので味を次回教えてとーー。
【9】第9診;2015.5.16
(メモ)
・全体としては良くなってきた。気力が増してきた。
・最近、朝おきてしばらくのイライラがひどい。
・不眠が二度あった。(どちらも1日だけ)
・睡眠時間が伸びて、5~6時間眠れるようになった。
・以前ほどではないが、起床時の動悸が少しある。
・お酒を飲み機械があったが、調子をくずさなかった。
唾前の漢方薬を比べて
酸棗湯が良かった。
1/2包で、睡眠時間が伸びた。スット入眠する。甘さ、苦さも控えめ。
治療;漢方薬は今のままで良いと。あと一押しの部分は多分『久しい病気は腎に及ぶ。』という考えがあるので、腎の漢方薬を使って行こうと説明し、納得される。六味地黄丸料を処方
【10】第10診;2015.5.29
(メモ)
・好調を維持している。
・朝おきてのイライラが少しおさまった。
・起床時の手のひらのこわばり、ほてりがある。
・前はあまり汗をかかない方だったが、ときどき皮膚が湿る程度の汗をかくようになった。
・お酒を飲む機会が有ったが、以前より酒に強くなったように感じる。
六味地黄丸料について
あっているように感じる。飲んでみて「水」のような感じ。
「コメント」
途中経過ですが、紆余曲折ありながら、山の頂上ゴールが見えてきそうな予感があります。西洋医学のスタンスは薬力で不安をとる、うつをとる、寝かせる・・・ですが、東洋医学は、その根本原因を探し、不足は補い余分は瀉し、バランスを修正して・・・自然に何時の間にか治って行く、です。この症例には、その醍醐味が若干隠されていると思いますが(私の独断と偏見が多々加味されていることは・・・)・・・。
その後、8月現在、標治(対症療法)が終わり、本治(根本原因の治療)に入っています。本治の漢方薬は人参湯です。---西洋医学には、その概念のない裏寒(内臓の冷え)の薬です。標治の薬が、味がまずくなり、あるいは症状がほとんどなくなったためーーー。
人参湯にかえて安定しています。治れば廃薬がゴールです。それも間近だと思っています。
10年間悩まれた症状、不具合を約半年で解決、ここに東洋医学の醍醐味が隠されていると愚考しています。
※醍醐味…患者様が必要な漢方は甘く感じ、自分で選んで服用してもらい、どんな治り方かの情報を教えてもらい、漢方薬の役目が終われば、味がまずくなりーーー、そして、最後は治れば薬は飲まなくてよくなる。廃薬この治り方、薬の減量、変更の仕方は西洋医学にはない分野だと1人勝手に愚考しています。自分で薬を選んで、自然治癒力を引っぱり出し、勝手に自分で治って行く。医者も針も薬もそれを手伝う道具にすぎないーーー。
(H27.6.8投稿)