論文タイトル

41.東洋医学の小経験ー冬病夏治ー

41.東洋医学の小経験 ー冬病夏治ー

 

東洋医学の小経験

 

ー冬病夏治ー

 

第4部 東洋医学ひぐちクリニック

 

樋口 理

 

 

 『冬病夏治』----この言葉は多分ご存知ない方々が多いと思います。寒くなる冬に悪化する病気は、陽の多い夏にお灸などの治療をして熱・陽を注ぎ込み予防しようという事を意味しています。(西洋医学にはない概念・治療法です)

 

 中医学の『冬病夏治』の養生思想から生まれた「三伏貼」は、日本人にとってはなじみが薄いかもしれませんが、台湾・中国・香港を含む中華系の民族にとっては欠かすことができない年中行事にもなっています。「三伏」とは、暦の上で一番暑い時期のことを指します。五行説の五季に、「長夏」というのがありますが、まさにこの「長夏」の時期のことを「伏」といいます。夏は五行で火に属しますが、その火が強すぎるとなかなか秋の金が出てこられません。そのため、金が「潜伏してしまう」ことにより、この「伏」という考え方が生まれてきたとも言われています。また、陽気が強すぎて陰気が潜り込んでしまったことも考えられます。

 

 さて「三伏」の時期ですが、夏至から20日後となる3つめの庚の日を「初伏」の第1日目、4つめの庚の日を「中伏」の第1日目、そして立秋の後の初めての庚の日を「末伏」の第1日目とし、それぞれ10日間あります。暦の関係上、中伏には20日間ある年もありますが、この30日間(もしくは40日間)を、「三伏」とする訳です。

 

 「三伏」は、人の身体にとっても大切な時期です。「天人合一」の思想から、人の陽気が最も盛んになります。一方で、冬場は寒邪や陰気が盛んであり、虚寒の体質であれば、寒邪の影響を受けやすくなります。「三伏貼」は、冬場に寒さが厳しくなると症状が悪化する疾患には有効であるとされており、虚寒の体質にもっとふさわしいと考えられています。夏場の盛んな陽気の力を借り、さらに内服薬や外用薬を利用して陽気を支持してやれば、冬以降に病気になりにくくなるというわけです。特に冬に多い喘息や気管支炎・アレルギー性鼻炎・関節炎・消火器系の疾患、さらに、治療が厄介な寒冷蕁麻疹などにも活用されます。具体的には、膏薬を貼る「敷貼」のほかに、お灸をする「天灸」などが代表的です。そのほか、抜罐(カッピング)や、薬浴なども、おこなわれます。

(参照:中医臨床 2010.9 vol31-N03 、P-92:未病を治す知恵 ④)

当院でも数年前から、冬に悪化する諸々の疾病の方に『冬病夏治』の思想を啓蒙し、すこしずつ効果を上げています。まだ数は少ないですが其のような症例を示します。

 

 

 

(症例1)73歳、女性

C.C.;喘息ー寒くなるとよくない、雨の降るまえが酷い

 

P.I.;10年以上前から、喘息がある。薬を飲んでいたが、かんばしくない。台風や大雨の前は必ずきまって良くない。友人が鍼やお灸や漢方薬で喘息の調子が良くなったと聞き受診する。

 

治療&経過;東洋医学では、喘息は胃が冷えたため、肺中冷となり、肺は乾燥を好む臓器なので、余分な水を排泄する治癒反応と説明。余分な水が原因ですから、湿度の上がるときに症状は悪化します。従って治療方法は胃を温め、肺を温める。温めるで最も効果的なのは、お灸です。直に熱を入れる事が出来ます。陰性食品の制限を指示。天突(胸骨柄上切痕跡と左右の胸鎖乳突筋の間の窪み)にカマヤミニを5社、大椎に棒灸を30分施工。この二つの処置でほとんどの方が楽になったと言われます。漢方薬は裏寒に温裏剤を投与。自宅でも、お灸を指導。毎年夏場にはお灸を沢山しました。秋口以降喘息の症状は軽減しています。もう3年目になりますが、---今年の夏は、台風が早くから来ましたが、発作は起きていません。天突にカマヤミニを5壮すると、肺がー胸の中が温まり、呼吸は簡単に楽になるそうです。薬で押さえ込まずに、自然治癒力を引っ張り出してあげると、此のような治り方です。薬を服用し続ける必要がなくなります。

 

【コメント】
喘息やアレルギー性鼻炎は東洋医学では、主体は『水毒』と捕えます。水は寒邪の性質(幼少の頃、川やプールで泳ぎ、唇は紫色になり、体はブルブル震えた記憶をお持ちの方もーー)がありますから、もし人の体内に水が溜まれば、人は中から冷やされます。人間は恒温動物ですから体温を維持するために『冷えの元になる水』を排泄しようとします。横隔膜から上に余分な水があれば、開いた穴から即ち口・目・鼻・耳から溜まった水を排泄し、バランスを保とうとします。横隔膜から下に余分な水があれば、大便か小便で排泄しようとします。西洋医学では不愉快な症状は、止めようとしますが、東洋医学では温めて早く水を排泄しようとします。全く正反対の考え方です。熱が直に入れば、わかりやすく言えば、半生渇きの衣類を乾かすのに、アイロンをかければ一瞬で乾きます。お灸をする意味はこの事です。という訳で、喘息やアレルギー性鼻炎の方々に天突と大椎への灸を教えてあげると、10人中10人に喜ばれます。吸入や西洋薬よりも効果的で、かつお灸をすると早く楽になるのが実感できて、本当に治る気がするといわれます。

 

※※参考;
胃が冷えると肺が冷える。肺が冷えるのが嫌だから咳や鼻水で水を排泄する。反対に、胃に熱がこもると、肺にも熱が生じ、その結果、肺経の鼻や頬が赤くなる。酒皶を生じます。治療法は熱を冷ます。その原因はアーモンドやピーナッツなどの木の実、或いは肉食などの熱性食品のとりすぎです。

 

 

 

(症例2)56歳、男性

 

C.C.;両手指関節の変形と痛み、鉛筆・箸が持てない、冷房で痛む、冬は痛んで困る

 

P.I.;20年位前から徐々に手指の変形が起こり始めた。最初は右手からそして段々に左手にも変形が起こった。諸々の医療機関を受診して検査受けるも、原因は不明。治療法は、痛み止めや湿布しかないといわれ、数年治療したが、年々悪くなるので止めてしまった。友人の紹介で受診

 

治療&経過;両手指関節の変形はDIP関節とPIP関節に及んでいます。皮膚には全く皺が有りません。特に関節部は浅い横皺が2~3本あるのみです。可動域制限は著しく、ピンチ動作はできません。西洋医学では手指関節の変形は使い過ぎとされていますが、東洋医学では水毒と説明すると、数十年の間毎週末缶ビール500mlを5~6本飲んでいたとの由。多分それが原因と説明。缶ビールほか陰性食品の制限を指示。鍼治療は八邪し、原因が冷えなので、温めるが主な治療方法になると説明して、お灸をすすめる。漢方薬は裏寒に温裏剤を投与。また防巳黄耆湯、桂枝茯苓丸加薏苡仁を投与。熱心に治療を続けられ、食事にも注意されました。もう4年になりますが、年を追う毎に、改善しています。通勤の西鉄電車の夏場の冷房にも反応しなくなり、冷えると痛むが無くなっています。秋口以降冬場の寒冷刺激にも影響を受けなくなりました。そして驚くべき事には、関節部は横皺が2~3本あるのみの状態が皺の数が増え皺が深くなり、皮膚には全く皺がなかったのが、皺が中枢側より出始めています。更に、各関節は変形のため大きくなっていたのが、不思議なことに小さく成り始めています。温める事で、冷えて循環障害が生じ、結果として関節の変形が起こったのと、逆回転で治癒の方向へむかっています。ピンチ動作も可能となり、鉛筆・箸が持てるようになっています。

 

【コメント】
ヘバデーン結節やブシャール結節等の手指の変形は、西洋医学一辺倒の時代は痛み止めや湿布の処方が当たり前で、それ以外の治療法があるなどとは思いもしませんでした。ましてや、変形が修復される治療法があるなどとはーーー。東洋医学の門を叩き、諸々の概念やその治療法を実践して行くと、本当に常識をくつがやされる事を度々経験しました。
 その第1例は50代の女性の右中指の末端が亀の頭の様に大きくなっており、人前に手を出せないという訴えでした。リウマチではないかと受診されました。水毒と説明し、治療開始。陰性食品の制限を指示し、漢方薬は防己黄蓍湯、薏苡仁湯、桂枝茯苓丸加薏苡仁などを投与。鍼治療は八邪、肘に灸頭鍼、天宗に吸い玉、自宅で手指にお灸を指導。3カ月後、少し右中指の末端が小さくなってきた。半年後、大部小さくなった。1年後、人前に手をだしても、恥ずかしく思わなかった。1年半後、レントゲン写真でも骨棘が小さくなっていました。この症例を経験してからは、自分の体の中で起こった事は、反対まわりに回転すれば、修復されるのではと考えるようになりました。そして、この症例の方も、逆回転で手指の皺の状態や変形がかなり改善していますから、私の仮設は確信に変わりつつあります。

 

 

 

(症例3)68歳、女性

 

C.C.;両手指が白くなる

 

P.I.;10年位前から、毎年冬になると両手指が白くなるようになった。痛みもある。其のうち、足の指も同じように白くなるようになった。複数の医療機関を受診し、レイノー病と診断された。治療法はない、或いは薬を飲んでもあまり効果はなく、原因も不明で難病と言われた。諦めていたが、友人から漢方治療があると聞き、当院のホームページをみて△年7月に受診。最近は夏場の冷房でもすぐに指が白くなる。寒くなってから受診しようと思っていたが、冷房でも白くなるので受診した。

 

治療&経過;レイノー病は西洋医学では、原因不明の難病ですが、東洋医学では『水毒』と説明するも半信半疑。体の中に水が溜まり、内圧が上がり神経血管を圧迫して、循環障害が生じる。又水が血管の周囲にあれば、寒冷刺激で水が冷え、その結果、動脈の痙攣が生じます。中医学では『肢端動脈痙攣病』と更に説明するとやや納得される。手指は触ると冷たく、しっとりと湿っています。陰性食品を制限し、温裏剤で内臓を温め、利水剤で水を抜きつつ、お灸で温めて水をさばく治療を開始しました。そうすると、2週間後手指の色が改善し、しっかりと湿っていたのが温かくなり、手の甲に皺が増えてきました。足の指も暗紫色から薄い桃色へとなりました。夏の冷房で、すぐに指が白くなっていたのが、ちょっと違ってきました。そして、その年の冬場は白くなるものの、いつもに比べて早くもとに戻るようになり、痛み方も軽くなってきました。そして翌年(△+1年)の夏も暑い中、お灸を頑張られ、自宅でも熱心にされ、夏場の冷房では起きなくなりました。その年の冬は起こる指の数が減り、範囲も狭く温めるとすぐに元に戻るようになりました。そして次の夏場(△+2年)もお灸をやり、その冬はレイノーが起きなくなりました。

 

【コメント】
西洋医学一辺倒の時は、レイノー病は治療法のない疾病と決めつけていましたがーーー。東洋医学の門を叩き、漢方や鍼治療、お灸を実践して行くなかで、中医学などを勉強して行くと、「治る病気」と記載してあります。『有効率100%』の数字を目にした時は、ビックリしました。そして、初めての症例は交通事故後遺症のレイノー病。1月の寒い時期なのに、2~3週間で症状の消失を見ました。画期的なことです。持っていた常識を簡単に壊されました。それから、時々レイノー病の方が受診されるとトライしていますが、有効率100%の中医学の記載は間違いではないと思っています。『水毒の概念とその治療薬』および『冷えの概念と温める治療法』があれば、積極的に治療出来ます。西洋医学には、残念ながら、その2つの概念が無く、治療法もなく難病の診断がつくものと思われます。今年の夏は3例の方に冬病夏治でお灸を中心に加療しています。今から、3例の方の症状がどう変化するか今年の冬が楽しみです。

 

※※参考
中国刺絡鍼法、 日本刺絡学会 監訳 東洋学術出版社 P149-150
19 レイノー病(肢端動脈痙攣病)[中医学:厥証]
レイノー病、別名「肢端動脈痙攣病」は血管運動機能の乱れによって、四肢末端の小動脈に生じる血管攣縮性疾病である。原因は不明で、激しい感情の変化や寒冷によって誘発されることが多い。本疾患は女性に多くみられ、中医学上でいう「厥証」の範疇に属する。
本疾患は発作時に、手指の色調が白から紫藍色に変わる。指の先から始まり、手掌全体におよぶ。冷感、しびれ感、あるいは鍼で刺したような疼痛、そのほかの異常感覚をともなうが、前腕部の脈拍は正常である。数分後にはこの症状は自然と緩解し、変転して皮膚は紅潮し、灼熱感、刺痛感が生じる。その後、正常な色調に戻る。加湿したり、こすったり、あるいは上肢を振り回す動作をすると発作は止まる。左右対称におこることが多く、小指や薬指にまず発現する。その後、他の手指に波及するが、母指などの比較的血流量が多いところに発現しない。発作がおきていないときは手足に冷感があること以外、他の症状はない。

 

【治療】
刺鍼と刺絡法
 取穴:手指に発現する者、主穴;欠盆。配穴;十宣・手三里・内寒・小海。足趾に発現する者、主穴;三陰交・照海。配穴;足十宣(足指先端)・秩辺・環跳。
 方法;欠盆(雀啄法)に刺鍼。置鍼はしない。十宣は刺鍼し3~5滴出血させる。そのほかの穴位は刺鍼後20分置鍼する。毎日1回。18回で1クールとする。

 

【資料摘録】
レイノー病に対する刺鍼治療(31例)
男10例、女21例。年齢、最年長60歳、最年少24歳。発病部位が両手指の者27例、両足趾の者1例、両手足・両足趾の者3例。上述の方法で2~4クールを治療した。その結果、完全治癒した者21例。著効10例。総有効率100%
(張維式;『中国鍼灸』.1988年4号25頁)

 

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当院について

自然
50歳をすぎて始めた東洋医学の治療効果--西洋医学だけの時よりも患者さんの治り方があきらかに違う。
人が本当に治るというのはこんな治り方をするのかと感激しさらに東洋医学のふかみにはまりました。
整形外科以外の他科疾患--例えば眼科、耳鼻科、精神科、皮膚科などの症例もすこしづつ増えて本当に治っていきます。
そんな方々の声があります。
患者さんと私や当院のスタッフはその事を知っていますが、それ以外の人はほとんど知りません。患者さんの了解を得て『患者のこえ』の作成を思いつき、それを公開しようと考えました。色々やってみたが--、体質とあきらめている。年のせいとあきらめている。等等--東洋医学の門をたたいてもらえれば一助になるかもしれません。

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