論文タイトル

6. 現代医学の見落としているもの ━裏寒:内臓の冷え

6.現代医学の見落としているもの ━裏寒:内臓の冷え

 



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現代医学の見落としているもの
━裏寒:内臓の冷え
第4部会 東洋医学ひぐちクリニック
樋口 理
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 東洋医学と西洋医学の差・違いは何か?。私の拙い経験に、独断・偏見が加味されていることはご理解下さい。
東洋医学は、明治政府が西洋医学を取り入れるまでの間、日本人の健康をそれなりに守ってきてくれた医学で、患者様の自覚症状を自然治癒力を高めて取るのに優れています。江戸時代には、世界最高の医療技術として、開花しました。西洋医学は戦争医学と発達し、数々の感染病を撲滅し、検査は日進月歩で進み、特に特急医療に強いという特徴があります。が、検査で異常がなければ治療を始めることが出来ないという欠点があります。治療の目標は、検査の数字を正常値の範囲におさめる事に主眼がおかれています。又、薬剤としては、漢方薬には暖める作用がある物が多数ありますが、西洋薬には皆無で、長期使用すると人を冷やすものが多数あります。

 病気の進歩を下記の様に考え、両医学の差を示します。
病の進行についてー両医学の差ー

 

 漢方を勉強していて、大先輩の教訓に納得!納得!という事が、多々ありましたが、極め付けが『現代医学の見落としているもの:裏寒』漢方の臨床:東亜医学教会5回シリーズでした。裏寒とは、分かりやすく言えば『内蔵の冷え』の事です。幼少児に川遊びやプールで泳ぎ、又は雨に打たれて体が冷えてブルブルガタガタ震えた覚えや、唇が紫色になった記憶をお持ちの方もおられると思いますが 内蔵が冷えて、唇は紫色、冷えを補うために、筋肉を震わせて熱を産生します。
 そういう目でみていると実に沢山の日本人に裏寒が認められます。特に小さな子供さんにも認められます。由々しき事態と思っています。『現代医学の見落としているもの:裏寒』を東亜医学協会の許可を得て掲載します。ご興味のある方は、どうぞご一読下さい。
 そして、自分の体は自分で守るしかないので、陰性食品(人の体を冷やす食品)のが氾濫している今日、自己責任で食品の選別ができる力をつけなくてはなりません。患者様へのご指導の一環として利用していただければ幸甚に存じます。

 

 私も、不貞愁訴の方で対応できず、神経質と考え、引き出しも無く、心療内科へ紹介しました。が、今は新しい武器:東洋医学があり対応できます。と言うか、怖くない、どうにかなると考えています。

○現代医学の見落としているもの裏寒①
 怖い内臓の冷え(要約)(上)
     名古屋市 医師 伊藤 浩史
     漢方の臨床58巻3号
     547~557
○現代医学の見落としているもの裏寒②
 怖い内臓の冷え(要約)(下)
     名古屋市 医師 伊藤 浩史
 
     漢方の臨床58巻4号
     785~793
○現代医学の見落としているもの裏寒③
 想像を超えて虚弱化した今日の日本人に対する温裏剤の活用(上)
     名古屋市 井上内科クリニック
     井上 淳子
     漢方の臨床 58巻6号
     1165~1177

 

 

現代医学の見落としているもの 裏寒①
怖い内臓の冷え(要約)(上)

     名古屋市・医師 伊藤 浩史

 

あなたの胃腸は冷えていないか!?
 現代医学の見落としているもの
 現代医学は大変な進歩を遂げ、平均寿命は大幅に延びた。しかし、現代医学が見落としている病気もたくさんある。漢方で裏寒(りかん)と呼ぶ病気も、そのうちの一つである。
 裏寒とは―内臓特に胃腸の冷えていること、新陳代謝、働きが低下していることを言う。
 「内臓の冷え」は「裏寒」を訳した言葉であるが、社会環境の変化から内臓の冷えは急速に広まっている。また現代医学では内臓の冷えを知る検査はなく、暖める作用の薬も持たないため的確に治療することができない。近い将来、内臓の冷えが医療上の大きな問題とされるときが来るかもしれない。

 

 「裏寒」の症状
手足が冷えやすい。よく他人に手が冷たいと言われる。
下痢が多い。冷たいものを食べるとすぐ下痢をする。
便秘も多い。便秘をしても便はそんなに硬くない。
通弁は普通だが、いつも軟らかく、また出てもすっきりしない。
いつも下腹部が気持ち悪い。時にボーンと張って苦しい。
右の下腹部が時々痛む。慢性盲腸だと言われたことがある。
右の腰が重かったり痛かったりする。
頭の後ろが重かったり痛かったりする。その時首すじや肩が凝る。
冷たい物を飲むと、すぐに鼻がつまったり、鼻水が出たりする。
明け方にみぞおちや胃が痛かったり、気持ちが悪く目が覚める。
真夜中や明け方に胸が苦しくなることがある。
朝身体が重く、気分が憂鬱である。やる気が出ない。食欲がない。
この中で3つ以上の自覚があれば「裏寒」ではないかと疑ってみていただきたい。

 

 「冷え」に対して気をつけること
冷たいもの(ビール、ジュース、アイスクリーム)を避ける。
なま物(サシミ、生野菜、果物)を避ける。
毎日少し運動をする。
精神の安定をはかり、楽しく暮らす努力をする。
薬(睡眠薬、下剤、安定剤、抗生物質、消炎鎮痛剤)の常用を避ける。

 

 なぜ現代人は冷えやすいか
*運動量が少ない。
*冷蔵庫が普及し冷たい飲み物、食べ物が身近にある。
*暖冷房が普及し体温調節能力が低下している。
*野菜果物に季節がなくなった。
*精神的負担が多く、身体のエネルギー(気)が上半身に登りやすい。

 

 冷え性と内臓の冷えとの違い
 体が冷えると病気として一般的に冷え症がよく知られている。女性に多く、腰や手足など身体の表面に冷えを感じるものもある。このような場合、一般に内臓も冷えていて身体の表面を温めることができないと考えられる。しかし、内臓の冷えの症状はもっと複雑で多彩なことが多い。体が火照(ほて)り、汗が出ているとか、喉が焼けるように渇いて冷たい氷水が飲みたくなるほどでも、まったく身体が冷えているのが自覚できない場合もあるから注意が肝心。
 昔から「喉元過ぎれば熱さを忘れる」といわれるように、内臓には温度感覚がないので、発見が遅れたり、対応が生ぬるくなったりする。

 

内臓の冷えをもっと良く理解するために
 人の身体はなぜ温かい?

 人間の体温は〇・一度単位の正確さできちんと維持されている。これは体内の新陳代謝に関係する酵素の働きを守るためである。多くの酵素が関係するが、その最適な作用温度が三七度であるから、円滑に新陳代謝を営むためには身体の中の温度をそれに合わせなくてはならない。
 逆に言えば、この温度を守れないことは身体の新陳代謝が乱されることを意味する。もし心臓などの重要な臓器で起これば命に関わることになる。
 そのため、人の身体には体温チェックをするしくみがあり、体温が上がれば冷やし、下り過ぎれば上げる反応が起こるようになっている。

 

 身体が冷える原因
 身体が冷える原因は、まず身体を冷やす飲食物を摂った場合が考えられる。飲食した物そのものが冷たい場合、食べた後そのものは体温と同じ温度まで高められる。その時に周囲から熱を奪うので内臓は冷やされる。
 一方漢方には、飲食物が体内に入ってから体を温める作用があるのか冷やす作用があるのかを問題にしている。冷やす作用のある物はたとえ温かくして摂っても身体は冷やされることになる。
 飲食物以外では、当然身体を低い気温にさらすことが問題となる。人間の暮らしている環境の多くでは、気温は体温より低いので衣服などの保温を必要としているわけである。冷えの起こる場合、体温と気温の差よりは身体の側の条件が問題となることが多い。
例えば、汗をかいたまま身体を冷やすと強く冷えるし、過労などでエネルギーが不足していると冷えに対する抵抗力が落ちてしまう。

 

 もし体温が下がったら
 身体を冷やしたりして体温が下がったら、寒気を感じ、身体が振るえ、体温を高める反応が起きる。一般に身体を冷やすことがすぐ内蔵の冷えを起こすことにはならない。しかし、永い病気や過労、その他の原因でこのような反応が起き難い場合、内臓に冷えが起こる。その場合、内臓の冷えは内臓全体に一様に起こるのではないようだ。心臓、肝臓、脳などの重要な臓器では温度が下がることは致命的となるので、これらの温度はきちんと守り、それ以外の、下腹部や腸などの温度が下がるのである。
 内臓の冷えは多くの場合、右の下腹から始まる。冷えの程度が強まるにつれ、上腹部へ広がっていく。時には上腹部から冷えが始まることもある。どこまで冷えてきているかによって症状は様々に変化するので、内臓の冷えの診断は非常に難しい。また、内臓の冷えはそれ自体一つの病気だが、それ以外にも多くの病気の経過の中で現れてくる。この場合、内臓の冷えの症状は本来の病気の症状に隠れてしまい、診断は一層難しくなる。
 内臓の冷えがあれば、それを優先して治療することが必要である。冷えは新陳代謝の低下を意味するから、治癒力を低下するだけでなく、薬などへの反応も悪くなり、治療が長引くだけでなく、思わぬ副作用も起こる。

 

 危険な内蔵の冷え
 身体は心臓などの重要な臓器が冷えないように守るわけだが、冷えが強まってくると冷えが心臓に迫ってくることになる。
 すると、夜中や明け方に胸や胃のあたりの痛み、首や肩の凝り、背中のいわゆる胃裏の付近の痛みなどを感ずるようになる。このような危険信号を感じたら、厳重に冷たい飲食物を避け、身体を温かくし、過労を避け、気持ちをゆったりして、これ以上冷えが進まないようにしなければならない。これ以上進めば突然死がまっているれからである。
 身体がこのような状態になった場合、漢方薬といえども身体の中の熱の移動を考えないと危険である。風邪の処方などにしばし用いられる麻黄や桂枝など解表薬の配された処方は身体の中心部から外へ熱を散らす作用がある。

 

 内臓の冷えの背景
 普通の人が冷たいものを食べても、また身体を冷やしても、ただ冷えただけでは内蔵の冷えは起こらない。内蔵の冷えを起こす人は何らかの原因で体温を守る力が弱っているからである。では体温を守る力が弱るにはどんな背景があるだろうか。

 

 病気のため体力が低下した場合
 人間の身体に外部から何らかの病気の原因が浸入した場合、身体はまず体温を上昇させる。この発熱は最近になって現代医学でも重視されるようになり、ただ熱を下げようとする治療には疑問が出されている。
 しかしこの発熱も体力がある程度以上ある場合で、体力がないと発熱しない。昔から老人の肺炎は熱がなくとも病気が進行している場合があるから注意しろといわれるのはこのためである。

 

 薬を永い間服用している時
 現代医学の薬、例えば抗生物質、精神安定剤、下痢、睡眠薬などは身体の新陳代謝を抑え、身体を冷えやすくする。このような薬を常用していると身体は除々に冷えていき、薬の効果は段々と弱くなっていく。
 一方、現在多くの医療機関で使われている現代医学の薬のほとんどは内臓を冷やす作用を持っている。このような薬を内臓の冷えのある人に使うと、重大な別作用が出ることがある。現代医学の薬は漢方薬に比べ、作用範囲が広く、身体全体に大きく、柔らかく効いてくるので、知らないうちに内臓の冷えが進んでいることがある。注意しなければならない。

 

 大きな手術の後
 開腹手術などを受けると体力が低下するが、さらに手術の傷痕を通じて冷えが内臓に入りやすくなる。また術後は腸の癒着などが多かれ少なかれあるものだが、癒着した腸は冷えやすくなる。

 

 胃腸の力が弱い人
 胃腸、特に胃の力は身体の温かさに大きな関係を持っているようだ。胃の力は強い人は大きな声で話し、食欲旺盛で元気がある。反対に胃の弱い人はスタミナがなく、疲れやすく、身体も冷えやすい。

 

 運動不足の人
 体温を高めるのに筋肉が大きな役目をする。身体を動かしていると筋肉が常に熱を作っている。このような熱が作られない人は冷えやすくなる。

 

 老人
 人間は赤ちゃんの頃は新陳代謝が盛んで体温も高いので抱いていると、とても温かく感じる。二十歳を過ぎて成長が止まると、それからは新陳代謝が歳とともに下がっていく。老人は基本的に冷えやすいと考えてよいだろう。

 

 運動を止めてしまった人
 永い間、かなりハードな運動をしていた人が急に止めると強い内臓の冷えを残すことになる。運動をして筋肉を動かすと大量の熱が作られる。その熱を冷やすために運動選手は特別に身体を冷やす力が強まっている。その人が急に運動を止めると、熱が作られないのに身体を冷やす作用が強く働き、冷えるのである。

 

 考えることが多い人
 人間は考えたりして精神活動を盛んに行うと、脳細胞が大量のエネルギーを必要とすることになる。このような状態が永く続くと、身体はそれに適応して変わっていく。下半身や脚に行くエネルギーを少なくして、頭へ行くエネルギーを多くするように身体を歪めるのである。その結果、エネルギーが少なくなった下半身は冷えやすくなる。
 コンピュータ作業をする女性の健康問題が話題にされるが、コンピュータの出す電磁波より、このようなエネルギー不足、冷えの方が大きな問題である。

 

 冷えの体質
 内臓の冷えやすい体質がいったんできてしまうと、これを根本的に改善することは難しい場合が多い。体質の治療は永い期間を要するため、治しきるまで治療を続ける人が少ないという一面もある。そのような人は常に体調を自己管理して、食事や服装、さらに暖房や温める薬をうまく使って、より元気に活動的な生活を守るようにすべきだ。

 

 近年増えている冷え
 内臓の冷えは近年急速に増え、重症の冷えも多くなってきていると思われる。それには社会環境の変化や生活習慣の変化が大きく関係しているように思える。以下でこの問題について考えてみよう。

 

 歩かなくなった
 筋肉の運動は体温を上げるための熱の産出に大きな役割を果たしている。筋肉を使わなくなると熱の産出が減り、身体は冷えやすくなる。最近の交通機関の発達は毎日歩く距離を大幅に減少させた。

 

 電気冷蔵庫や自販機が普及した
 電気冷蔵庫はどこの家庭にも必備で、清涼飲料水の自販機は街にあふれている。氷や凍る寸前まで冷えた飲食物が簡単に手に入ることになった。
 体内に入った冷たい物はすぐ体温と同じ温度まで温められ、まわりの内臓の熱を奪っていく。

 

 食べ物の変化
 食べ物、特に野菜、果物を中心に、最近の食生活は大きく変化した。夏に限られた身体を冷やす野菜が、今は一年中手に入る。また果物も豊富に供給されている。ビタミン不足になると脅かされ、それまでほとんど食べなかった果物、生野菜を、内臓が冷えることも知らないまま、大量に摂取しているのである。

 

 暖冷房の普及
 電化製品の普及ではもう一つクーラーを忘れてはならない。家庭内や公共の場所、乗り物の中も空調が行き渡り、屋内の温度は夏冬逆転するくらいなっている。そのためわれわれの身体は日に何度も温度の差を乗り越えなければならない。このために冷えに対する抵抗力を失っていく。

 

 夜更かしが増えた
 夜遊び、夜の仕事の人、その他の理由で夜更かしする人が増えてきた。家庭内でも遅くまで勉強したり、テレビを見たり、宵っ張りの朝寝坊の人が増えている。
 地球上のエネルギーは全て太陽からの贈り物だといえる。太陽の日の出、日の入りと生活がずれるほど身体は冷えていくようである。

 

 高齢化社会
 老人の内臓は冷えやすい。高齢者人口の増加は内臓の冷えている人の増加を意味する。

 

 情報化社会
 毎日毎日、われわれに襲いかかってくる情報の量は膨大なものである。そのためにわれわれの脳細胞は休む暇なく活動している。そのためのエネルギーもまた膨大なもので、それを確保するためエネルギーは頭に集中し、下半身は慢性的なエネルギー不足にさらされている。そんなエネルギー不足の下半身から冷えが内臓へ登ってくる。

 

 医学の進歩
 医療と内臓の冷えとの関係はいろいろな場で起きている。ここでは極めて重要な三つのことを述べよう。
 まず、麻酔の進歩や手術技術の向上で大きな手術が成功するようになったことである。大きな手術の後は内臓の冷えやすい体質が残る。
 さらに、医学の進歩はこれまでは命にかかわった重症患者でも治すことができるようになった。しかし、重篤な病気を乗り越えた後には必ず内臓の冷えを残すものである。
 また、成人病などで永く薬をのみ続けなければならない人も増えている。のみ続けているうちに体質が徐々に変わっていき、この人達の何割かはいずれ内臓の冷えを訴えるようになってくる。医学の進歩が内臓の冷えを増やし、悪化させることに一役買っていることは極めて残念なことである。いちばん基本的な問題は現代医学がまだ内蔵の冷えに気付いてなく、適当な治療手段を持っていないことである。これについては後で詳しく紹介する。

 

抑える治療 高める治療
 内臓の冷えの判る検査はない

 現代医学は内臓の冷えを認めていない。内臓の冷えの判る検査方法がないからである。したがって内臓の冷えを診断するには患者さんの訴える症状と医師の患者さん身体を詳細に見る診察技術によるほかはない。
 しかし、内臓には熱い冷たいという感覚はない。したがって内臓の冷えを直接感ずる症状はなく、内臓の冷えのために起こる症状の多くは冷えから身体を守るために体が起こしている反応によるものである。
 身体が起こす反応は極めて巧妙で複雑なものである。これを正しく判断するには経験の積み重ねを必要とする。

 

 症状と治療について
 現代医学は患者さんに苦痛を与えるいろいろな症状はすべて病気による悪いものと考え、それを抑え、取り除くことを第一に考えている。
 しかし漢方では、症状は病気の原因に対して身体が反応し、それに打ち勝ち、取り除こうとする反応の結果起こるものと考えている。症状が激しいことは病気が重いことを意味するが、同時に身体が病気に対して強く抵抗していることも意味している。このように、症状は病気と身体との二つの面から捉えなくてはならない。
 進行したガンの患者さんは時に激しい痛みを訴えることがある。しかし、その後、ある時を境に痛みが消えてしまうことが、しばしある。病気のほうはさらに進んだ状態にあるので、病気の側からは痛みが消えたと考えられるのである。
  ここで興味深い事実は、身体が自分の力で病気を治そうとする反応(自然治癒力)は、病気を自然に弱め、症状を軽くしていくような、優しい働きのものばかりではないということだ。身体は病気に打ち勝ち、生命を守るために時には激しい症状を伴う異常状態を自ら引き起こすこともある。
 内臓の冷えを考える場合、このような身体が生命を守るために起こしている反応を注意して診断しないと大きな誤りをおかす危険がある。
 このように考えると、むやみに症状を抑えようとするのは逆行した治療であるといえる。症状があまり激しい場合は、やはり一時抑える治療が必要とされる場合もあるが、症状を注意深く分析し、抑えてもよい症状、抑えてはならない症状を見極めることが大事なことなのである。

 現代医学の中で、内臓の冷えによる病状の変化にしばしば用いられるのは副腎皮質ステロイドである。これを日常の内臓の冷えに使うことは副作用の面から困難だが、内臓の冷えの治療は漢方薬の独壇場と言える。

 

 冷えの漢方治療
 漢方医学は二千年も前から、病気が進行して体力が低下すると体温が維持できなくなり、温める薬が必要であるとしている。漢方には数種類の内臓の冷えを温める薬があるが、内臓の冷えの治療の現状にはいくつかの問題がある。

 

 漢方治療における問題
 漢方薬を使う医師は急速に増えたが、現代医学的な考え方の中で新薬として漢方薬を使う医師が多く、漢方医学の持つ理論はなかなか理解されない。漢方の教える冷えの治療原則は、他にどんな症状があろうと冷えを疑う症状があれば優先してこれを治療すべきということにあるのだが、これを実践する医師は漢方専門医のなかでも少数である。
 重要な冷えの治療は四逆場を使う。しかしこの処方は健康保険で使えるエキス剤の中にはなく、煎じ薬を使わねばならない。この薬を使うような場合は効き目の強い煎じ薬を、さらにその人の状況に合わせて加減して使わなければならないような重篤なことが少なくないのであるが、やはり気軽に飲めるエキス剤もなければならないものだと考える。

 

 漢方治療の実際
 冷えが心臓に迫ってきているときは四逆湯の類が使われるが、健康保険で使えるエキス剤にないので、煎じ薬を使うのが良いのだが、どうしても煎じ薬が使いにくいときは、乾姜甘草散という生姜と甘草の粉末の製剤も売られている。これに附子の粉末か錠剤を加えて使う手もある。
 さらに軽症なら人参湯を流用する手もある。これには生姜と甘草が含まれ、心臓に迫った冷えを治療できることがある。
 冷えが右下腹中心にあるときは真武湯を使う。新陳代謝が低下した状況では応用範囲が広く、下痢、便秘、腰痛、眠気、倦怠などに良い効果が得られる。
 そのほか、胃腸の冷えに当帰四逆加呉茱萸生姜湯や大建中湯など冷えの程度、広がりによって使い分けると良いだろう。温める薬を使い、だんだん温まってくると、風邪様の発熱、上腹部の熱、瘀血症状など熱の症状が見えるようになることが少なくない。このような場合、冷えの程度を考慮しながら的確にこれらを治療しなければならない。この治療を適切に行うことにより体質が改善されたり、治療期間を短縮できたりする。
 内臓の冷えの治療は薬物治療より生姜がメインである。生活改善がなければ薬物治療は対症療法にとどまり、いつまでも服用を続けなければならないことになる。

 

 内臓の冷えの養生
 例えば真武湯を毎日服用していても、冷たいビールをコップ一杯飲めば、その効果は消されてしまうであろう。冷えの治療は養生なくしては成り立たない。ビールなんかに負けないくらい強い薬を作ればいいじゃないかと思われるだろうが、もしそんな薬ができたら温まりすぎの害が続出することであろう。
 養生は大きく分けて、食事、運動、保温、精神的な問題の四本の柱から成っている。

 

 食事の養生
 アイスクリーム、ビール、さしみ、すし、生野菜などは胃に入ると周りから熱を奪って体温と同じになるまで温められる。熱を奪われた内臓は冷える。このような直接冷やす飲食物のほか、温かくして食べてもその作用として身体を冷やすものがある。トマト、キュウリなどの夏野菜や柿、梨、イチゴなどの果物である。内臓の冷えている程度によりこれらの飲食物を避け、冷やさないようにする必要がある。
 漢方で言う食養生では季節季節に、その土地の旬のものを食べることを勧めている。結果として夏は冷やす食べ物、冬は温める食べ物を食べるようになるからであろう。
 香辛料は温める作用を持っている。ショウガ、カラシなどをうまく使うと食も進み、温まることができる。

 

 運動について
 家の中、仕事場でほんの少し歩くときも全身の動きを意識して歩くと良い。
 内蔵の冷えている人には朝起きるのが辛く、なかなか元気が上がらない人がいる。夕方ころから元気が出てきて夜更かししてしまう。そんな人は朝起きてすぐ一日のウォーミングアップの運動をすることをお勧めする。運動で身体を温め、やるべきことは早く済ませ、早寝早起きの習慣を作ろう。地球上の熱はすべて太陽からの贈り物である。太陽の動きとあわせて生活するほうが冷えにくくなる。早寝早起きがよい。夜働く人はできるだけ太陽の光を浴びるようにするとよい。
 浮力で脚に負担がかからないからとプールの中で歩くことを勧める人がいる。温水プールでも水温は二十九度くらいで体温よりはかなり低く設定されている。水中にいる間いつも体温は奪われているわけで、内蔵の冷えがある人は絶対にしてはならない。
 かなりハードな運動を続けていると、身体はそれに適応して筋肉から熱が内臓に及ぶことを予想し、内蔵の温度を低めに設定する。スポーツマン心臓といい、運動しない時の脈拍数が普通の人より少なくなる。このような人が運動をやめてしまうと、内臓の冷えが急速に悪化する。このような人は一生ある程度の運動を続ける必要がある。
 胃腸の弱い人が筋肉を鍛える運動をすると、鍛えられた筋肉に内臓がつぶされてしまうような現象が起こる。まず内臓を良くしてその状況を見ながら筋肉をつけなければならない。
 疲労が蓄積すると、内臓の冷えは急速に悪化する。冬山遭難の状況はその例である。疲労の限界はそれを超えて見ないとわからない。しかし超えてしまって限界を知った時はもう遅い。

 

 保温
 われわれ周囲の環境は体温より低いことが多く、保温は大事な養生である。
 夜寝ている間は意識がなく身体の冷えに気づかないだけでなく、新陳代謝が低下して身体は冷えやすくなっている。夜温かく休むことは内蔵の冷えの養生として重要なポイントである。
 都会の夏はクーラーなしでは眠れなくなってしまったが、つけっ放しは避けたい。夏は汗をかくため皮膚の表面が緩んでいる。寝ている間にじわじわと冷えが浸透してくるのである。同じ部屋に寝る人のあいだで体質の違いがあるとクーラー戦争が勃発する。ここは、ここは、より冷えている人に合わせてクーラーを弱めにしていただきたいものだ。
 入浴はぬるめのお湯で下半身をじっくり温めるのが良い。脚からの血液はお腹の中を通るので内臓が温まりやすくなる。カラスの行水では身体の表面が温まるだけで内臓には達しない。重症の冷えの人は寒い冬に熱い風呂に飛び込むのは危険である。寒い中で少ない熱を守ろうとしてきた身体の反応が乱されてしまうからだ。温かい室温に身体を慣らしてから入るとか、まずぬるめのお湯につかるなどの注意が必要である。
 入浴後の身体は皮膚の表面が緩み、冷えやすくなっている。短い時間だからだと薄着でいるのは良くないことである。特に足を温かくしよう。入浴後に冷たい飲み物を摂る習慣は内臓の冷えのある人には向かない。

 

 精神的なこと
 筋肉は蓄えられたエネルギー源を使い果たすと疲労する。しかし脳細胞は簡単に疲労しない。エネルギー源の蓄えがないので常に血中から新鮮なエネルギーを得ているからである。
 脳細胞がより多くのエネルギーを要求するようになると身体はそれに適応する。下半身に行くエネルギー(気)の集中と、内臓の冷えに差はあるものの、全く同じことである。脳細胞を使いすぎる人は、何らかの原因で冷えが強くおきたとき、容易に重症の冷えに陥る危険がある。
コンピュータを使って作業する人などはこのエネルギー(気)の上半身集中がどんどん進行する。短い作業時間で休憩し、歩くなどしてエネルギーの下半身への誘導を試みる必要がある。
 この適応反応は具体的には胸椎の十番目辺りの筋肉を緊張させ、背骨を少しずらしているように見える。この辺りが痛かったり重かったりする人は要注意である。
 怒りや悲しみなどの感情は身体をゆがめ、エネルギー(気)の流れを乱す。喜びや楽しみの感情は身体の筋肉を緩め、全体に温かさを広める。喜びや楽しみを多く生きることは、内臓の冷えに最も良い養生ではないかと思う。
 (医師:〒464-0075 名古屋市千種区内山3-25-6 トーカンマンション千種712)

 

 

現代医学の見落としているもの 裏寒②
怖い内臓の冷え(下)

      名古屋市・医師 伊藤 浩史

 

内臓の冷えの症状と対策
 内臓の冷えの症状の特徴

 身体の表面が冷えを感ずると、手足や背中・腰に寒さや冷たさを感じる。このような症状が内臓の冷えが悪くなる前に感じられることは無論あるのだが、多くの場合、その症状を感じないで内臓の冷えが悪化することがある。
 内臓の冷えのある方は腹が張るとか、腹痛を感ずるかもしれない。これが内臓が冷えを感じている症状といえるかもしれないが、これは身体の冷えに対する反応とも関係が強く、両方が入り交じったものと考えるべきだろう。
 内臓の冷えやすい傾向にある人は、この段階で身体を温めるとか温かいものを食べたり飲んだりして、用心する必要ある。この段階を過ぎると身体が冷えに対して反応を起こしてくる。
 これには大きく分けて二つの対策がとられる。一つは新陳代謝を高め身体を温めようとすることであり、もう一つは今ある熱を失わないようにする反応である。
 身体を温めようとする反応は、身体の表面や上部に偏る傾向があり、結果として発熱とか風邪様の症状となって現れる。熱を失わないようにする反応は、筋肉の緊張を高め、それによっていくつかの関節を巧みに変形させ、エネルギー(気)の流れをコントロールする。これにより手足から熱が放散されるのを防いだり、胃腸の動きをコントロールしたりするわけだ。
 一般に夜中から朝にかけて起きたり、悪化したりする症状は冷えによるものと考えて間違いないだろう。女性の場合、月経前後に起きたり悪化する症状に、基礎体温の高温期から低温期に変わることによる身体の冷えによるものがある。

 

 風邪様状
朝起きて、喉がちくちくする、頭が重い、体がだるい、ちょっと熱っぽいなど、風邪を引いたかなと思う症状は多い。このような症状は胃腸が冷えたり、過労などによって身体のエネルギー(気)の流れが弱くなって起こるものである。この時、市販の風邪薬を服用する方が多いのだが、これには問題がある。

内臓の冷えとか過労による場合は風邪薬を服用しなくても、温かいものを飲んだりして身体を温めたりすれば、簡単に治る。この時、市販の風邪薬を服用しても症状は軽くなり、治ったような気がするが、風邪薬には内臓を温める作用はないので、また同じような症状が起きることになる。「最近風邪を引きやすくなった、ひと月に何度も風邪をひく」という話をよく聞く。こんな人気風邪薬を止めて、内臓を温める漢方薬を服用するとよいだろう。

内臓の冷えなのか、本当の風邪なのか、分からない時は、まず温かくして安静にして様子を見るとよい。風邪の初期でも安静にして保温をするのは決して間違った養生ではない。

また、熱が十分上がりきらないうちに解熱剤を服用するのは決してよいことではない。風邪の時の発熱は身体がビールスを退治するために起こしている反応であるから、熱がまだ十分上がらないうちに解熱剤を飲んで下げないほうがよい。

 

 発熱
内臓の冷えで最も多い症状の一つが発熱である。微熱程度のことも多いのだが、時に三十九度を超える高い熱も出る。内臓の冷えによる発熱の特徴は、熱以外にあまり激しい症状がないことである。寒気が強い、身体ががたがた震える、節々が痛い、頭痛が強い、などの症状がある時は別の原因による発熱と考えられる。
内臓の冷えによる発熱は、高い熱があっても割合元気である。三十九度の熱があっても平気でテレビを見ている子供さんもいたりす。

 

内臓の冷えによる発熱は、内臓の冷えを身体が感知して、新陳代謝を高め内臓の温度を上げようとするのだが、なかなか内臓が温まらないため身体の表面の熱が上がりすぎてしまうためだと考えられる。発熱していても内蔵を温める薬を使えば、簡単に解熱するものである。

 

体温が三十九度を超えている人に温める薬を処方するのは、矛盾した治療法に見えるが症状だけを見ず、身体の反応を考慮に入れれば当たり前の治療法といえる。

 

 頭痛
 内臓の冷えによる頭痛は三種類ある。まず風邪様症状によるものがある。これは比較的軽いもので頭が重いとか、ちょっと痛いくらいである。発熱とか倦怠のほうが強く、頭痛のために何か薬を使うようなことは少ない。

 

内臓の冷えが重傷の時、胃のあたりが冷えると、筋肉が反射的に緊張し、首が前に引かれるようになる。首の付け根でエネルギーの流れが乱され、後頭部から首の後ろが痛むようになる。

 

さらに激しい痛みは肩、首の凝りから始まり、偏頭痛の形で激しく痛み、吐き気や嘔吐を伴うこともある。これは冷えと、それに伴う水分の停滞によって起こると考えられる。生理前の女性に、このような痛みが起きることもしばしある。このような痛みに呉茱萸湯が効く場合がある。

 

 喉の痛み
喉がちくちくしたり、何か喉に引っかかるような症状は、しばし内臓の冷えで起こる。漢方では喉へ来るエネルギー(気)は足から上がってくるものと考えている。疲労したり、下腹部の内臓が冷えると足からのエネルギーのめぐりが遮断され、喉の痛みが起こってくる。
早めに休んだり、温かくすれば割合簡単に治るものである。

 

 鼻水
 花粉症・アレルギー性鼻炎などにみられる水っぽい鼻水は胃のあたりの冷えが関係している。日ごろから冷たい飲食物を避け、水分の取り方に気を付ければ鼻水はずいぶん少なくすることができるものである。

 

 
 肺炎・気管支炎など多くの咳は肺の熱によって起こる。しかし、逆に肺の冷えによる咳もある。風邪の後などで咳が長引いている人や、すぐ咳が出たり、息苦しさを感ずる人は肺の冷えを疑ってみる必要がある。

 

 倦怠感・眠気
 内臓の冷えは新陳代謝を低下させるため、倦怠感を起こす。これは当然身体が一番冷える、朝に強く感じられる。それほど睡眠時間が短くないのに、寝起きが悪い人は内臓が冷えている可能性が高いと考えるべきである。朝のうち元気が出ない人も、午後になって気温が上がり、身体が温まってくるとだんだん元気が出てくる。元気が出てからがんばって夜更かしをしてしまう人も少なくない。これでは内臓の冷えもなかなか良くならない。
 内臓の冷えで軽い鬱状態が起こる。温かくして寝て、起きたらちょっと運動して身体を温めると治ることも少なくないだろう。
内臓の冷えによる新陳代謝の低下は、眠気を起こす。昼間ちょっとゆったりすると、すぐ居眠ってしまう人には内臓の冷えがあるだろう。温かいものを飲んだり、ちょっと身体を動かして新陳代謝を高めるようにすると良い。

 

 不眠
 内臓の冷えにより、夜、寝付けなかったり、夜中に一度目が覚めてなかなか寝付けなくなってしまうことがある。こんな症状が何年も続いている人も何人か診たことがある。一般に睡眠薬とか精神安定剤が使われるが、内臓の冷えのある人は、これらの薬によって内臓の冷えが悪化するので、薬の使用量が増えたり、効かなくなったりする。このような不眠は、冷えにより胃腸の動きが悪くなり、その不快な感じが安眠を妨げていると考えられる。
真武湯はこのような時よく効く。真武湯は眠気を治すと本に書いてあり、そんな作用らは、不眠に使うとかえって眠れなくなってしまうのではないかと考えられるが、実際はそうではない。一つの薬が、患者さんの状態により、眠気と不眠のように、まったく正反対の症状に有効なことは漢方の世界ではしばしばある。
内臓の冷えという一つの状態が眠気と不眠とか、下痢と便秘というまったく正反対の症状を起こすことも覚えておくべき重要な問題である。

 

 腹痛
 冷えによる腹痛はしばしばみられる。急激な冷えにより腹が痛くなり下痢するというパターンは珍しいことではない。もっと軽い痛みで内臓の冷えに特徴的なものが右下腹部のチクチクする、あるいは張ったような痛みである。外科で診てもらうと慢性虫垂炎とか移動盲腸とかいわれることがある。この痛みは時に右腰につながって感じられることもある。
 腹部手術をしたことがあり、腸の癒着がある人は冷えによる激しい腹痛と腹がボーンと太鼓のように張ってしまうことがある。腸閉塞症状で最悪の場合、緊急手術が必要となることもある。しかし、うまく胃腸を温める漢方薬を用いて回復することもある。

 

 下痢と便秘
 腹部が冷えると腹痛を伴い、下痢をすることがしばしばある。軽い場合は一、二回の下痢で終わり、温かいものを飲んだり食べたり、腹部を温めることで容易に回復する。しかし、重症の場合は下痢が長く続くこともあるので、胃腸を温める薬を使う必要がある。
 漢方では便秘を胃腸の熱と考える人がすくなくない。確かに以前は胃腸に熱がこもった便秘が多かったが、最近は冷えによる便秘がほとんどだと考えられる。ここで気をつけなければいけないことは昔から便通をつけるのに良いと言い伝えられる方法は、すべて胃腸を冷やす効果を持っているということだ。バナナを食べるとか冷たい水やミルクを飲むなど、また便秘に使う緩下剤も胃腸を冷やす。
胃腸が冷えている便秘には使ってはいけないものである。一般に急激な冷えは下痢になり、慢性的に徐々に冷えてきた時は便秘になるようだ。
 内臓が冷えてきた時、身体がどう反応するかで下痢と便秘は分かれる。腸のなかのじゃまなものをなくして身体を温めようとすると下痢になり、排便することによって身体の熱が失われるのを嫌うときは便秘になる。

 

昔から便秘は恐いものとされて、一日二日出ないと心配する人がいるが、恐いのは熱がこもった便秘で、冷えによる便秘はそんなに恐いものではない。
冷えによる便秘の場合は一般に、口がまずくなったり、腹が強く張ることは少ない。
内臓を温める薬である真武湯は、効能書には下痢に使うように書かれているが、これで便通が整う人も多い。胃腸が温まり、もう便通を止めている必要がなくなれば便は自然に出るようになる。

 

 手足の冷え
 内臓の冷えのある人の手足は冷えやいものである。内臓を温かく保つことができなくなった時、身体は手足のエネルギーのめぐりを少なくして手足から熱が逃げるのを避けようとする。手の冷えは温かさと冷たさの境目を割合はっきりと感ずることができる。その境目の場所で内臓の冷えの強さをはかることができる。当然、腕の上のほうまで冷たいほうが重症である。
 また、手足の冷えは精神的な緊張でも起こる。このような手足の冷えは気分がゆったりすれば温かさを取り戻すことができる。眠りに就く時、手足は温かくなる。手足が冷たいとなかなか寝付けない。
 重症の冷えの場合、強度の手足の冷えが認められるが、むやみに手足を温めてはいけない。内臓を先に温め、その温かさが自然に手足に及ぶまで待たねばならない。ひざのあたりの冷える人は胃の働きが弱い人に多い。

 

 肩や腕の痛み
 内臓の冷えにより、身体のいろいろな場所の痛みが出ることがある。夜中や朝に強まる痛みは冷えによるものと考えて間違いない。
身体の痛みは単にその場所が冷えて起こる場合もあるが、内臓の冷えに対する防衛反応として、筋肉の緊張を変えたり、関節を歪めたり、エネルギー(気)の流れを変えたりした結果、起こる痛みも少なくない。肩や腕の痛みの場合、冷えにより首の付け根が固く凝り、そのため腕へ行くエネルギーが不足している時、仕事などで腕や手を酷使すると疲れが溜まり、やがて痛みを起こすようになると考えられる。
 このような痛みは痛む場所を温めるだけでなく、さらに内臓を温める(例えば温かいものを飲む、風呂で腹を温める、内臓を温める漢方薬をのむ)ほうが効果的である。
痛み止めの薬は内臓を冷やすので、のんだ直後は良くても後で痛みが強まることもある。冷やす湿布も同じことが言える。その時、気分は良くても後で痛みが強まることもしばしばある。
 肩や腕の痛みは上腹部の内臓、胃のあたりの冷えと関係することが多く、次に書く腰痛は下腹部の冷えと関係することが多い。

 

 腰痛
 腰痛は非常に多い症状である。立って歩く人間の腰椎はそれより上の部分、すなわち上半身の重量をすべてささえなければならない。そのため腰椎は歪みがなく、まっすぐに並んでいなければならない。すこしでも歪みがあると重量を支えきれず、痛みを伴う腰の病気を起こす。
内臓の冷えは、身体が全身を温かく保つためのエネルギーを十分確保できないため、一部をあたためるめに起こる。このような時、身体は関節を少し歪めてエネルギー(気)の流れを調節するわけである。このような小さな歪みが腰椎に起きた時、それが原因となって、何かの拍子でぎっくり腰やヘルニアなどが発症してしまうのである。
それほど重症でなくとも、朝起きて腰が痛い、長い時間立っていたり、中腰でいると腰が痛いなどの症状が出る原因になる。内臓の冷えによる典型的な腰痛は右の腰に現れる。一番下の肋骨の下の筋肉が左に比べ、強く凝っているのが特徴である。
一般に腰の痛みはしばしば慢性化して長い間悩まされることが少なくないのだが、それは腰の歪みのもとになった胃腸を治さないからである。胃腸を温めたり、働きを高める治療をすることにより、永年苦しめられた腰痛から開放されるケースも少なくない。このような胃腸を温め、働きをを高める治療は漢方しかできない領域だと思う。

 

  排尿異常・膀胱炎
 一般に身体が冷えると尿の回数や量が増えることがあるが、下腹部の内臓が冷えると排尿時の痛みや不快感が出る。原因となる細菌がよくわからない膀胱炎は、冷えによると考えて治療したほうが結果はよいであろう

 

  むくみ
 一般に身体が冷えると排尿回数が増えたり尿量が増したりするが、逆に内臓の冷えからむくみが起こることがある。冷えにより身体のエネルギー(気)のめぐりが悪くなり、身体の表面の水分が停滞するためと考えられる。一般に程度は軽いものである。真武湯などを使うと、むくみは簡単に消える。

 

 ふわふわ感
 内臓の冷えにより腰椎が歪むと、ふわふわした感じが出ることがある。めまいではなく、足が何か柔らかいものを踏んでいるような、何か安定しない感じである。これはむくみより時間はかかるが、腰の歪みがなくなれば治る。

 

 月経の異常
 内臓の冷えにより様々な月経の異常が起きている。生理痛にも冷えによるものがある。月経周期の異常としてはどんどん早く来るケースや排卵がなく無月経になることもある。また出血量が多いとか、上がりが悪くいつまでも出血するケースもある。内臓の冷えによる不妊も少なくない。昔から女性はいつも下腹、腰を温かくしているよう言い伝えられているのもうなずける。

 

冷えのぼせ
 人間の身体の熱は一般に上半身が高く、下半身は低くなっている。東洋医学では、人間の身体エネルギー(気)の流れは顔から頭、後頭部から背中、腰、脚の外後ろ側を下がり、足から下腹部、むねからのどへとめぐると考えている。この環境がどこかで滞ると上半身が熱く、下半身が冷える、いわゆる「冷えのぼせ」が起こる。
 内臓の冷えがある場合、身体がこのようなエネルギーの循環を止めてしまうので、当然冷えのぼせが起こる。ここで厄介なことは、しばしば上半身の熱の症状のみが強く現れ、冷えの症状が隠れてしまい、患者さんも医者も身体を冷やさなければならないと誤認することである。
 これは次に述べる重症な冷えのとき特に起こりやすく、そのため誤った治療により、いたずらに死期を早めてしまう結果につながりかねない。

 

重症な冷えの症状
 内臓の冷えは一般に心臓から遠いところから始まり、進行するにつれ、心臓に近いところに迫ってくる。恐ろしいことだが、冷えが心臓に入れば心臓は止まる。
ここで言う重症な冷えとは、冷えが心臓に近づいたことを指している。
夜中から明け方にかけて、胸や心下部(胃のあたり)の痛み、首が前に引かれるような凝り、胃の裏あたり、背骨の両わきの痛みなどの症状は重症な冷えである可能性が高く、注意が必要である。
 重症な内臓の冷えの場合、熱と冷えの症状が複雑に入り組んで現れることがある。
寒く感じていたのに急に汗が出るほど熱く感じたり、喉が焼けるように渇いたり、口が苦く舌が熱っぽく感じたりする。
このような症状は重篤な病気の末期に現れる。身体全体が冷えてきて上半身の一部分だけに熱が残っている上に、身体が最後の力を振り絞って身体の温かさを回復しようとがんばっている症状だといえよう。
 このようなときに使う漢方薬は内蔵を温める薬の中でも、そのような状態のために考えられた四逆湯の類を使う以外にない。残念ながら四逆湯は健康保険に採用されたエキス製剤の中にはないので、煎じ薬を使わなければならない。
 桂枝を含んだ漢方処方はたくさんあるが、このような時は禁忌である。桂枝は内臓の熱を体表へ散らす作用があり、残り少ない熱を一気に失うことになり、悲劇的な結末になる。
 一見健康に見える人でも疲労が溜まったり、精神的な負担が長い間続いたり、夜更かしが続いて、睡眠不足が重なったりすると、内臓の冷えが重症になっていることがある。
 特に日ごろ体力に自信のある人の場合、精神力で乗り切れると考えていることが多く、危険である。健康に自信のある人は内臓の冷えで起こるような軽い症状は感じないか、無視してしまう傾向があり、疲労が蓄積しているにもかかわらず、ストレス解消と称してビールを飲んだり、プールで泳いだり、身体を冷やすことに無頓着になり、突然重大な病気を起こしたり、最悪の場合、突然死にいたってしまうことは残念なことである。
 人間の身体はある程度の無理は乗り越える力を持っている。しかし、それには限界があり、それを越えれば破綻を来たす。この限界は越えてみなければ分からない。限界を超えてしまって倒れてから、その限界を知っても、重大な後遺症を残してしまったり、命を落としてしまっては何にもならない。
 重症な冷えの時、さらに冷えが加わると心臓の発作を起こしたり、脳卒中の発作や、突然の大出血を起こす危険性がある。突然死の原因として内臓の冷えは重要な意味を持っている。
 重症な内臓の冷えの場合には、身体を冷やしたり、冷たいものを飲んだり食べたりすることを厳重に止めて、疲れがあれば温かくして休むこと、また悩み事や考え事があれば、しばらくはそれを避け、ゆったり過ごす必要がある。
 他に苦痛があっても温める薬以外は服用をさけるのが賢明である。特に風邪薬は危険である。身体の中のエネルギー(気)をかき混ぜてしまい、残り少ない身体の温かみを体外へ放出してしまうからである。

 

 内臓の冷えの症状のまとめ
 内臓の冷えの症状は多彩である。中には内臓に冷えに固有の症状ではなく、ほかの原因でも同様な症状が起こるものもあり、判断の難しいことも少なくない。症状の組み合わせや、悪化する時間等を総合的に判断する必要がある。
 しかし、一般に、老人は特に、冷たい飲食物を避け、身体を温かく守ることは健康上悪いことではない。内臓の冷えが疑われる場合はこんな注意を守り、これ以上冷えないようにすると良いだろう。

 

 内臓の冷えを考慮すべき病気
 内臓の冷えが大きな要因となっている病気、内臓の冷えの程度が経過や予後に大きな関係を持っている病気はたくさんある。
 以下の病気はその一部である。アトピー性皮膚炎・花粉症・甲状腺機能亢進症・高血圧症・糖尿病・いくつかの難病・腰痛・狭心症。

 

おわりに
 現代医学は内臓の冷えに気づいていないし、適当な治療薬も持っていない。一方では病院の内外に内臓の冷えの人はあふれている。内臓の冷えが何らかのきっかけで認識されたら大きな恩恵がもたらされ、医学も一段と進歩することであろう。
(医師:〒464-0075 名古屋市千種区内山3-25-6 トーカンマンション千種712)

 

 

現代医学の見落としているもの 裏寒③
想像を超えて虚弱化した今日の日本人に対する温裏剤の活用(上)

 名古屋市・井上内科クリニック 井上 淳子

 

はじめに
 30年ほど前から漢方薬が保険収載され、多くの先生方が盛んに漢方薬を日常診療に用いられるようになりました。誠に嬉しい限りです。しかし、過渡期の現象なのでしょうか、漢方薬が必ずしも適切に用いられていないように思います。
 その第一の原因は今日の日本人の身体が想像を超えて虚弱化しているにもかかわらず、その認識のないまま、いわば江戸時代と同じ漢方治療指針にのっとった治療が行われているためと思います。
 漢方医学には現代医学にない、裏寒「生体の生命現象の根底を司る代謝の低下」という概念と裏寒に対する治療法「温裏剤投与」を持っています。『傷寒論』にはまさに危急の事態に陥らんとしている、重病感のある裏寒の様相が記述されています。
 気づいている漢方治療家は少ないのが現状ですが、今日の日本人は食生活や生活様式などの変化により虚弱化し、極めて裏寒に陥りやすい体質に変化しており、ちょっと見た目には分からないが、よく診ると裏寒に陥っている患者さん「隠れた裏寒証」が現実には非常に多いのです。漢方治療ばかりでなく、現代医学の治療も裏寒を見逃して治療を行うと治療効果が上がらないばかりか、反って病状を悪化させてしまう危険性があります。
 温裏剤を危急の事態に限定して使用するのではなく、隠れた裏寒証に対しても拡大して使用することで多くの患者さんが良くなられ、医師としていささかお役に立てたとの嬉しい思いをさせて頂く機会をしばしば経験しています。
 現代医学の治療は殆どが漢方医学の立場から観ると、強力な攻撃的治療です。ですから、特に今日においては隠れた裏寒証をも見つけ出し、温裏剤を適切に投与することが漢方治療においては最も重要で、また、漢方薬が現代医学に大きく寄与できることであると思います。

 

漢方薬の大まかな分類
 漢方薬をごくごく大まかに捉えると、いわば攻撃的な漢方「攻撃剤」と防衛的な漢方「防衛剤」とに分けて考えると理解しやすいと思います。
 攻撃剤とは、病邪(ストレス)を排除しようと積極的に働きかけて治病に導く、いわば現代医学の解熱鎮痛剤・消炎剤などに相当するものです。
 一方、防衛剤とは、体が機能低下を起こしている時、身体を強く温めたり、内臓の働きを良くしたりして、自然治癒力を高めて治病に導く薬方です。

 

 攻撃剤・・・・・陽病(陽証)に使用
 強く発刊させて病邪を発散
 解表剤[麻黄]・・・・・葛根湯・麻黄湯

 

下して病邪を排出
清熱瀉下剤[黄連・黄?・黄柏・大黄・芒硝・石膏・山梔子]・・・・・調胃承気湯・半夏
瀉心湯・黄連解毒湯
中和して病邪を排出
柴胡剤[柴胡]・・・・・小柴胡湯・大柴胡湯・柴胡桂枝湯
駆瘀血して病邪を排出
駆瘀血剤[桃仁・牡丹皮・紅花・蘇木・水蛭]・・・・・桂枝茯苓丸・桃核承気湯・通導散
漢方薬の大まかな分類

 

  防衛剤・・・・・陰病(陰証)に使用
 現代医学はウィルヒョウが病気を炎症「発赤、疼痛、腫脹」と捉えたように、補液、輸血など、ごく特殊な治療法を除き、抗生剤や消炎剤、抗癌剤などの強力な攻撃的処方や、手術や放射線治療などの攻めの治療を行っています。
 そのため攻めの治療で生体の機能低下を来す機会が多くなっています。それに加えて今日の日本人は想像を超えて虚弱化しており、体つきは良くても注意深く診ると生体が機能低下をおこしている人が極めて多くなっています。
 現代医学の中で漢方薬を投与する必要性の一つに、機能低下をおこしている生体の、先ずは機能を高めるという、現代医学にはない治療薬である防衛剤を用いる漢方治療が重要となってきています。
 しかし、防衛剤の中で脾胃剤等はよく用いられていますが、防衛剤のエースと言うべき温裏剤については殆ど用いられていない状況であると思います。今日ほど温裏剤を適切に使用する必要がある時はないと思います。

 

防衛剤・・・・・陰病(陰証)に使用
伊藤康雄氏(杏林ワコー薬局)の分類

伊藤康雄氏(杏林ワコー薬局)の分類

「小建中湯や黄耆建中湯などの建中湯類は虚労に対処する処方として小児の体質改善のためによく用いますが、虚弱化した今日の日本人には老若男女を問わず緒疾患に用いて極めて効果の高い薬です。一般的ではありませんが、建中湯類を脾胃剤に分類しました。」

 

現代の漢方治療のABC
A.裏寒の治療を最優先
裏寒が顕著に認められる時(代謝低下)は、他の一切の治療は無効である。反って病状を悪化させるだけである。温裏剤を適切に使用することが漢薬治療にとって一番大切である。
B.脾胃を整えることが治療の要
後天の気の源は脾胃は身体の要、脾胃を整えれば生体の自然治癒力が高まる。脾胃の機能を高める脾胃剤がことに重要である。
C.補ってから攻める、温めてから下す補いながら攻める、温めながら下す
攻撃剤を使用すべき状況にあっても、裏寒や気虚、裏虚が認められれば、攻撃剤を使用すると反って病状を悪化させる。防衛剤を使用して身体を温め、ない図の働きを良くし、攻撃剤を使用する必要があることが今日の日常診療では多い。
今日の漢薬治療に際しては以上のように防衛剤が重要ですが、これに相当する薬は現代医学にはありません。漢方薬は防衛剤を適切に使用するだけでも現代医学をかなり補うことが出来ます。

 

裏寒とは
現代医学には裏寒の概念も治療法もありませんが、漢方医学では裏寒の治療を最優先して行う事を原則としています。なぜならば、裏寒を見逃して治療を行うと反って病状を悪化させ、場合によってはしに至らしめてしまう危険性もあるからです。
裏寒とは、生体がストレスに打ちのめされ、防衛反応が衰え生命維持に必要な代謝が低下した結果として、身体の中心部の冷えを来している状態のことを指します。この時心臓に近い場所や体の芯を投影して
従来の裏寒の概念と今日の隠れた裏寒証
いると考えられる部位が他部位と比較して冷たいことを触知します。現代医学の立場ではショック準備状態か、あるいはそれに近い状態を指していますが、温裏剤を適切に使用することにより危急を救うことが出来ます。温裏剤は漢方医学の救急救命剤、漢方のステロイドホルモン剤と言えると思います。
気づいている人が少ないのが現状ですが、今日の日本人は虚弱化し裏寒に陥りやすい体質に変化しています。体調不良などを訴えて受診される患者さんの中にも見た目には分からないが危急の事態の時と同様
一見、熱実証と思われても隠れた裏寒証であることが多い

に、体の芯を投影していると考えられる部位が他と比較して冷たく、隠れた裏寒に陥っている方が非常に多い事に気づきます。今日の一般的な漢方治療指針は『傷寒論』に記述されているように、危急の事態に対して温裏剤をクラシックに使用するように指示されているだけであり、今日の日本人の実情に合わなくなっています。
隠れた裏寒証をも見つけ出し治療するには、裏寒をショック状態・緊急事態で捉える古典的な概念を改め、新たな拡大解釈を取り入れる必要があります。
今日、一般的には体つきなどを基準として実証、虚証、中間証と区別して漢方処方が選択されていますが、一見、熱実証と思われても、現実は体の中心を反映すると思われる部位が冷え、隠れた裏寒証に落ちいている人が多いのです。

 

セリエのストレス学説よ漢方医学
『傷寒論』に記述されている漢方医学の基本的な診断治療法である三陰三陽は現代医学のように原因を診断するのではなく、病に対する生体の防衛反応の諸相(証)を診断し、その治療法を指示しており、現代医学を学んだ私どもには極めてとっつきにくいのが実情です。
セリエのストレス学説を足掛かりに三陰三陽を思い描くと、裏寒の概念も理解しやすく、温裏剤の臨床応用が容易になると考え、シューマを私案しました。
セリエは生体には細菌、ウイルス,異物、毒物ばかりでなく、寒冷、暑熱、X線、外傷などの物理的作用因子、出血、筋
セリエのストレス学説と漢方医学

肉疲労、心身の苦痛などあらゆるものがストレッサーとなり、生体にストレスを与えるが、生体はストレスを受けるとストレッサーの種類を問わず同一の応生体防衛反を起こし、受けたストレスを排除し、ホメオスターシスを保つ働きがある〔汎適応症候群;G.A.S〕と述べています。一方、『傷寒論』にはありとあらゆるものが邪として生体に影響を与え、邪の種類を問わず三陰三陽で説明される同一の生体防衛反を起こすと述べると共に、汗、吐、下法などにより邪を排除し病を治すための様々な漢方処方も記載しています。
セリエのストレス学説と全く同じことを既に2000年以上も昔に漢方医学が気づいているばかりでなく、更に個々の病態に応じた適切な治療法を指示するとともに、誤治に対処する治療法まで明示している本当に素晴らしい医学なのです。
 生体を丸いボールに例えますと、外力(ストレス)を受けるとボールに何らかの歪みが生じます。ついで歪みを排除しようとする内力(生体防衛反応)が働き、歪みを治し、元の丸いボールに戻ります。生体は丸いボールと同じで、受けたストレスを汗、吐、した、怒鳴る、笑う、泣く、あくびなど何らかの形で排除しなければホメオスターシスを保つことが出来ませんが、その排除には必ずエネルギーの放出を伴わなければ行われ得ない仕組みを持っています。従って、治病の第一歩は代謝を高め、体温を上げることです。
例えば、風邪をひいて発熱し、汗をかいたところ解熱し、気分がすっきりしたということは日常よく経験するところですが、生体は受けたストレス(ウイルスなど)を排除し、病を治すために代謝を高め、体温を上げエネルギーをため込み、


※その際、内力がわずかに過剰となり、ボールが凸型に膨張するプロセスを経て、元の丸いボールに戻る

発汗してエネルギーの放出を行っても良いと判断したレベルまで体温を上げた後に、発汗という形でエネルギーを発散すると共に、受けたストレスを排除し、解熱したということになります。生体の代謝のレベルから、このプロセスをシューマにすると生体はストレスに打ちのめされ、一時的に生体の防衛反応が衰え代謝レベルは下がるが、すぐに生体の防衛反応が作動し、生体の代謝を高め……エネルギー発散できるレベルまで十二分に代謝を高めて……汗、吐、下、などの形でエネルギーを発散するとともに、受けたストレスを排除しホメオスターシスを保つと言えます。
 日常、生体はストレスを受けても、殆どの場合は生体が異常を感じないままに生体防衛反応が起こり、ストレスを排除してしまってると考えられます。受けたストレスが生体に強く作用したり、長引いたりした時などに、生体は初めて異常を察知することになります。
セリエのストレス学説と漢方医学

病のごく初期(セリエの警告反応)
セリエは汎適応症候群の第一段階を警告反応;A.Rと呼んでいますが、これは、生体がストレスを受けたが、まだ生体の防衛反応が十分に働かず代謝が衰えている病のごく初期に相当します。
 受けたストレスが強すぎて生体の防衛反応が全く働かない場合は、ショック死となり、殆ど働かない場合はショック状態となります。生体の防衛反応が正常に作動する場合でも、ストレスを受けた直後はストレスに打ち負かされ、生体の防衛反応が一時的に衰える時期が、時間の長短はあるが必ず存在します。
 この時、まさに病気だという感じの関節や筋に沿って広がる痛みや、食欲減退を伴った胃腸障害などの病の初期化に共通する非特異的症状を現し、組織学的に副腎皮質の肥大、胸腺やリンパ腺の委縮、胃十二指腸の内壁に出血や潰瘍が見られる。とセリエは述べています。
寒気がしたり、喉が痛かったり、体がだる重かったりして風邪を引いたかなと思う時はセリエの警告反応の時期にあると言えますが、民間療法では生姜湯や卵酒を飲んだり、足浴をして体を温めます。漢方医学の立場でこの時期を観察すると、心臓に近い部位や体の芯を投影していると考えられる心下部や左上腹部、背部の肺愈や心愈の辺り、臍の辺りや臍下などが他の部位と比
病のごく初期(温裏剤の適応)

病のごく初期(セリエの警告反応の時期)

ショック状態

ショック死の場合

較して冷たいことを触知四、生体防衛反応が衰え、生命維持に必要な代謝が低下した結果として裏寒に陥っていると推察され、四逆湯や真武湯などの温裏剤を投与すると、患者さんが、すぐに気分が良くなって風邪をひかずに済んだと喜んでいただけることが多いです。
セリエの警告反応の時期→生体の防衛反応の衰え・代謝の低下→体の芯を投影している部位が他と比較して冷たい→裏寒
今日の日本人は虚弱化し、裏寒に陥りやすい体質に変化しています。
病のごく初期(セリエの警告反応の時期)

その上、邪が重畳して追い討ちをかけることが多いため、現実にはセリエの警告反応の時期が長引いていることが多く、風邪を引ひき発熱、脈浮、頭痛、肩凝りを訴え、まさに太陽病と思われても、真武湯など温裏剤が奏功する症例が日常診療では圧倒的には多いのです。

 

太陽病
太陽病とは警告反応の時期が過ぎて、受けたストレスを排除しようと生体が代謝を高め、防衛反応が活発に働いているが、まだストレスを排除する段階に至っていないときと言えます。
図に示すように、代謝の急峻な立ち上がりの時期に相当する。甘草、生姜で裏を温め、芍薬、甘草で裏を補い防衛反応が円滑に作動するように身体を補填しながら、麻黄で強く発汗を促し、受けたストレスを汗と共に排除し、頭痛や肩凝りなどの防衛反応の結果として生じているすじのこわばり、苦痛を和らげる葛根湯や麻黄湯など解表剤(現代医学の解表鎮痛剤に相当)の適応となります。
「『傷寒論』には桂枝湯も太陽病の万剤とされていますが、虚弱化した今日の日本人には臨床的には太陽病は麻黄の配され、強く発汗を促す方剤であり、桂枝湯は太陽病の方剤と割り切って考えた方が良いと思います。」
太陽病(解表剤の適応)

太陽病

 

陽明病
陽明病とは生体防衛反応が活発に働いているものの、受けたストレスが何らかの原因で裏に入り込んでしまって排除されない為に、代謝過剰斯亢進状態となり、裏熱〔腹満、便秘,
潮熱など〕が篭り、病態が膠着状態となっているときと言えます。大黄などが配され、裏熱を瀉下して、受けたストレスを取り除こうとする調胃承気湯、大承気

陽明病(清熱瀉下剤の適応)

陽明病

湯などの清熱瀉下剤の適応となります。

 

少陽病
少陽病とは生体防衛反応が活発に働いているものの、受けたストレスが何らかの原因で半表半裏に入り込み、排除されず、代謝の過剰な亢進状態が続き、少陽に熱〔往来寒熱、胸脇苦満など〕をはさみ、病態が膠着状態になっているときと言えます。
柴胡の配された小柴胡湯など柴胡剤の適応となります。
少陽病(柴胡剤の適応)

 

陰病(少陰病)
少陰病とは警告反応の時期は過ぎても生体の防衛反応が十分に働かないままに病が進展している結果として、裏寒に陥っている時と考えます。
附子や生姜が配された体を温め代謝を上げ、自然治癒力を高める真武湯などの温裏剤が適応となります。また、病の途中でも何らかの原因で生体の防衛反応が衰え裏寒に陥っている場合も温裏剤の適応となります。
「『傷寒論』には少陰病に麻黄附子細辛湯が挙げられていますが、虚弱となった今日の日本人には、少陰病は臨床的には麻黄の配されない真武湯、附子湯と考えた方が良いと思います。」 今日の日本人は邪が重畳して追い討ちをかけられることが多く、体調不良などを訴え受診される人の中に、現実は少陰病となっている人が多いのです。
少陰病(温裏剤の適応)

少陰病

少陰病ー現代人に多いパターン2ー

今日の医学において
裏寒を重視しなければならない理由

1. 地球環境の悪化、食生活や生活様式などの変化により今日の日本人は想像を超えて虚弱化し、裏寒に陥りやすい体質に変化しています。

 

具体的には…
電磁波やダイオキシン等各種の内分泌撹乱物質などによる邪の侵襲。
冷蔵庫や冷暖房・自動車の普及による快適かつ便利な生活。生活リズムが夜型に移行・高層住宅・情報過多で多忙な生活・人と人とのぬくもりが薄くなりストレスの多い社会。
2, 健康保険で治療が受けられるよき時代となり、プライマリーケアーや体調不良など、病気でない病気をも診察する機会が増えました。これらの疾患には温裏剤の使用の機会が非常に多いのです。
3. 現代医学の治療は特殊な場合を除いて、漢方医学の立場からは攻撃的治療に終始すると考えられます。」現代医学の治療を受けてはかばかしくないとの理由で漢方治療を希望される事が日常多いのですが現代医学の攻撃的治療に打ち負かされて裏寒に陥っていることが多いのです。

 

一般臨床の立場での温裏剤の範囲と応用
一般臨床の立場での温裏剤の応用
1.いわゆるプライマリーケアーに使用すると効果抜群である。(病のごく初期は警告反応の時期にあり、裏寒に陥っている)風邪・咳・鼻水・発熱・下痢・腹痛・嘔吐・尿意頻数・夜尿・水溶性帯下
2.現代医学が苦手とする体調不良など病気でない病気などで裏寒体質のもとに多用する。(現代医学には冷えの概念も治療法もない)胃腸虚弱・風邪をひきやすい・風邪が治りにくい・低血圧・起立性調節障害・内臓下垂・体調がすぐれない・疲れやすい・神経衰弱
3.現代医学の治療経過において病気の程度から考えて訳もなく体調の不調を訴えたり、むやみに苦しがったりする時。(現代医学の治療は殆どか生体にとって攻撃的治療法であり、裏寒に陥りやすい)手術・放射線治療・抗がん剤・薬剤投与過誤・多剤服用
4.漢方治療の効果を高めるために温裏剤を兼用する。小倉重成先生の提唱する潜証の懸念、今日の日本人は壊病に陥っているケースが多い。
5.漢方医学で往診治療をするときにしばしば用いる機械がある。
 (漢方の救急救命剤は温裏剤である)
※特に四逆湯類をしようする機会が多い。

 

分かりにくい隠れた裏寒証をも見つけだすためのポイント
裏寒を診断するためにはショックに陥らんとする症候を見逃さずに捉えることです。しかし隠れた裏寒証の有無は現実には紙一重の差を読み取らないと診断出来ないことが多く、古典的診断基準だけでは不十分であり、新たな診断基準が必要です。そこで、一般的な寒熱の診断基準で寒(機能低下)の所見を捉える必要があることは勿論ですが、注目すべきチェックポイントを挙げてみました。
以下に挙げる項目のうち一つでも該当すれば裏寒を念頭に総合診断を進める配慮が必要です。

 

ポイント1. まさにショックに陥らんとする、ショックを起こすか知れない症候
冷や汗、顔色不良、手足厥冷、血圧低下…ショック血圧でなくても、普段と比べ著しく低下している時も含める
著しい体調不良症候…むやみに苦しがる、むやみに眠がる、咽燥し声がかすれる、ムカムカして吐きそうになる、あるいは吐く

 

ポイント2 .寒(機能低下)の所見
寒そうな様子、顔つき(顔色が悪い、蒼白、唇の色が悪い)手足が冷えている、体が冷たい、体温が低い口中は乾燥せず水分を欲しがらない 温かい飲食物を欲しがる
舌質は淡、舌苔は白く濁っている 尿は透明で着色していない・量が多い
便は軟便傾向 脈はわかりにくい

 

ポイント3 触診により裏寒を捉える(体の芯を投影していると考えられる部位の冷え)
背部の肺愈、心愈あたりの冷え
心下の冷え
左上腹部の冷え
鼻の冷え

 

 一般臨床での温裏剤の範囲
桂枝や麻黄などの解表薬の配されない、生姜や附子の配された構成生薬数の少ない処方
一般臨床の立場での温裏剤の範囲

 

左乳首の冷え
臍の辺りや臍下の冷え
膝や手首の冷え

 

その他.特に注意すべき点(裏寒外熱を見逃さない!)
顔色…身体の心を投影している鼻や唇の辺りの白さ、むくみ、唇が蒼白、紫色
手が温かくても指先が冷えている 発熱しても平気でいる・熱のわりに脈が遅い・判りにくい・均一でない 汗をかきやすくて、風邪を引きやすい・鼻水や咳が出やすい。
口唇、特に下口唇の赤みや乾燥・舌苔の乾燥・冷たいものをがぶ飲みする
やたらに暑がる・汗を物凄くかく・眠れない・無性に痒い・無性にいらつくなどの身熱を思わせる所見は、実は裏寒外熱・真寒仮熱、あるいはそれに煩燥が加わった状態であることが多い。(〒464-0841 名古屋市千種区覚王山通8-70-1サンクレア池下4F)

 

当院について

自然
50歳をすぎて始めた東洋医学の治療効果--西洋医学だけの時よりも患者さんの治り方があきらかに違う。
人が本当に治るというのはこんな治り方をするのかと感激しさらに東洋医学のふかみにはまりました。
整形外科以外の他科疾患--例えば眼科、耳鼻科、精神科、皮膚科などの症例もすこしづつ増えて本当に治っていきます。
そんな方々の声があります。
患者さんと私や当院のスタッフはその事を知っていますが、それ以外の人はほとんど知りません。患者さんの了解を得て『患者のこえ』の作成を思いつき、それを公開しようと考えました。色々やってみたが--、体質とあきらめている。年のせいとあきらめている。等等--東洋医学の門をたたいてもらえれば一助になるかもしれません。

医院概要

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【院長】樋口 理
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