論文タイトル

9. ある鍼灸師の目線一病気を治すのは誰?

9.ある鍼灸師の目線一病気を治すのは誰?


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ある鍼灸師の目線
一病気を治すのは誰?
第4部会 東洋医学ひぐちクリニック
樋口 理
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 世界最古の医学書は2000年前の中国の『素問』・『霊枢』です。古人はちょっと残酷ですが、生きたまま解剖をしています。
そして、個々の臓器の観察では人体の仕組みは分からない(西洋医学の顕微鏡、更には遺伝子解折などない時代ですから)とし、気の長くなるような機能の観察を始めました。その結果、生まれたのが経絡です。

 西洋医学は、個々の臓器を詳しく調べ専門的です。一方東洋医学は人を有機体とし、全ての臓器はお互いに関係しあい、何か訴えがあれば、必ず有機体のネットワークのどこかに歪む原因が有るとします。

 明治国際医療大学の篠原先生は、整形外科領域で多くの実績をあげられています。
 50肩の上腕2頭筋長頭障害による拳上困難には、母指球にある魚際に皮内針をすると約8割の方が、その場で拳上可能となります。西洋医学の常識では考えられません。
 又、膝関節水腫や膝関節前面の痛みは陽明胃経の熱とし、足の内庭や裏内庭に皮内針をするとやはり疼痛は軽減消失し、水腫も関節穿刺することなく改善します。不思議な世界ですが、1秒でも早く症状を軽減したい方には、最高の治療となります。
 その篠原先生が経絡・経筋を使って、諸症状の関連性を説明され、原因を特定され問題を解決された例があります。東洋医学技術出版社の許可を得て掲載します。全てにあてはまるわけではありませんが、こんな解決法もあるとどうぞご一読下さい。

〔7月31日投稿〕

中医臨床 第32巻第1号(2011年3月)
東洋学術出版社
鍼灸百話-第8話-


病気を治すのは誰?
明治国際医療大学(旧称・明治鍼灸大学)
伝統鍼灸学教室 教授 篠原 昭二

 2004年3月、附属鍼灸センターに左関節痛を訴えて来院した73歳の女性がいた。3年前に右乳がんの手術を受け、2年前から左股関節痛を自覚するようになり、がんの骨移転ではないかということで種々の精密検査を受けるも、がん性の病気は否定され、整形外科と股関節周囲の鍼灸治療では一時的な効果しかなく、悪性の病気ではないかと不安に駆られて来院したとのことであった。

 悪性のもの(気滞血瘀から邪熱に転化したもの)であれば、夜間痛・自発痛・安静時痛・などが徐々に悪化する傾向があるため、痛みの状態について尋ねると、体重をかけたり、股関節に負荷をかけたときのみ痛むとのこと。したがって、悪性の病気ではないと思われた。
また、このような動作時痛は、経脈が養う筋肉系統(経筋という)の異常によって生じることが多いことから、股関節の前面を通過する胃経(胃の経絡)上の足の指の付け根にある内庭・外庭穴30mm16号鍼にて1mm程度切皮置鍼を行ったところ、股関節痛は来院時に比べて、3割以下まで軽減した。
内庭などへの鍼刺激が顕著な症状の変化を引き起こしたということは、足陽明筋経病による股関節痛であったことを証明する。

 一方、経筋病が生じるには、オーバーユースによるもの、打撲、捻挫などによるものが最も典型的な病因であるが、そういった外因は認められていない。ということは、経脈や臓腑病から生じた可能性が高い。そこで胸やけやげっぷ・しゃっくり・吐き気・腹痛などの消化器症状の自覚があるかどうかを尋ねると、「股関節の痛みと何の関係があるのか?」と不審な顔をされたが、股関節痛が出始める前から胸焼けが起こるようになり、内科を受診したところ、「逆流性食道炎」の診断をされて投薬治療を受けているとの答えが返ってきた。
 鍼灸医学では、逆流性食道炎を「胃気上逆」と考えているが、胃の動きが失調して腸へ送られずに上に上がってくるというのが胃気上逆であり、胸やけ・げっぷ・しゃっくり・嘔気(妊娠時のつわりも同じ範疇)腹痛などを訴える。胃気上逆は、胃の腑が障害される誘因としては、暴飲暴食や偏食、ストレスによることが多い。しかし、73歳の女性であり、暴飲暴食は考えにくいことから、「何かとても嫌なことやストレスになるような気がかりなことがありますか?」と尋ねると、さらに不審な顔をして、「股関節痛とどんな関係があるのか?」という。そこで、怒りやストレスは胃の正常な働きに悪影響を及ぼして胸やけなどを起こすと、胃の異状が起こると胃の経路にも影響を及び、顎関節・股関節前面・膝関節前面の痛みなどが自覚されることを説明した。そのときはじめて合点がいった表情になり、「じつは、5年前に父が他界し、実の姉と遺産相続の問題でもめている。姉と話をするたびに胃がキリキリ痛み、股関節痛が悪化する・・・。」ということであった。結局、耐え難いストレス(肝鬱気滞)が誘引となって胃の働きが障害され(肝胃不和)、それが胃の経路異常を誘発して出現した股関節痛(足陽明経脈・経筋病)であることが明らかとなった。
 そこで、太衝の表在の緊張(気滞)に大して浅刺で瀉法、胸脇苦満に対して期門(第6助間乳頭線上)に横刺で瀉法、左内関の硬結・圧痛に対して寧心安神および中集をくつろげる目的で刺鍼し、ついで、肝兪一行の索状緊張・圧痛に対して瀉法、右胃兪の膨隆・硬結に大して湿痰を取り除くために瀉法の手技を行った。この段階で、股関節痛も腹部の症状もほとんど自覚しない程度に軽減した。最後に、一時的に股関節痛や腹部の症状は取れるが、ストレスを改善しなければ症状はすぐに再発することを指摘して治療を終了した。
足陽明経筋図

コメント:足陽明経路を使って、膝関節筋前面。股関節前面、胃大腸の問題、顎関節の問題、はぎしり、口腔内下顎部の問題に対応できます。経路の通っている部位の諸問題に対応できるという不思議な世界です。

 1週間後の再診時、1診の治療後、症状は軽減したが、数日後にまた姉と遺産の問題で話をしてすぐに症状が再発し、ストレスが腹部の不快感や股関節痛と密接に関係していることをよく自覚できたと語った。治療は1診とほぼ同じ治療をして終了し、最後に、ストレスのもとを改善しない限り難しいですよと指摘して治療を終了した。
 2週間後、晴れやかな笑顔で来院された。すると、「もうないものとして遺産のことはあきらめました。そしたら、おなかの痛みもとても楽になりました」という。
 ここで行った鍼治療は患者さんの気づきを後押ししただけであり、内科や整形外科、局所治療を行う鍼灸院に何日もかかって通院したのにも拘わらず症状が改善しなかった股関節痛を、患者さん自身がストレスと向き合うことによって簡単に治してしまった。この症例を通して、本当の医療・治療とは何なのかを深く考えさせられた。さらに、精神的な苦痛がいかに身体に悪影響を及ぼしているのかを痛感せずにはいられなかった。

今回のまとめ
頑固な愁訴の背景には、内因(精神的ストレス)の関与していることが多い。
患者さんはストレスが引き金となって症状が誘発されているとは考えないことから、問診だけに頼ると肝鬱などのストレスを見落とすことが多い。
合目的的に、病因を追及するための診察が不可欠である。
本症例で特に決め手となったのは、右関上の弦脈(肝胃不和)と胸協苦満であった。
経筋病であれば、疼痛部位と関連する末梢の榮穴や兪穴に強い圧痛が出現しやすく、その穴に軽微な刺激(皮内鍼を0.5mm程度刺鍼)するだけで症状が軽減もしくは消失することが多い。もしも、ほとんど変化がなければ、経脈病もしくは臓附病が背景に強く残っていることを考慮するべきである。

コメント:鍼灸の世界では、経路を使って痛みをとりますが、その際、私も含めて西洋医学の整形外科医は画像診断の所見を重視し、場合によってはその所見を痛みの原因とします。が、経路を使えば画像所見に関係なく症状の軽減が測れます。不思議な世界です。

(H25.7.31投稿)
当院について

自然
50歳をすぎて始めた東洋医学の治療効果--西洋医学だけの時よりも患者さんの治り方があきらかに違う。
人が本当に治るというのはこんな治り方をするのかと感激しさらに東洋医学のふかみにはまりました。
整形外科以外の他科疾患--例えば眼科、耳鼻科、精神科、皮膚科などの症例もすこしづつ増えて本当に治っていきます。
そんな方々の声があります。
患者さんと私や当院のスタッフはその事を知っていますが、それ以外の人はほとんど知りません。患者さんの了解を得て『患者のこえ』の作成を思いつき、それを公開しようと考えました。色々やってみたが--、体質とあきらめている。年のせいとあきらめている。等等--東洋医学の門をたたいてもらえれば一助になるかもしれません。

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